ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 美人は雷師を構え直した。
 視線は羅生から離さない。
 羅生は自分が斃さなければならないのだ。これ以上、二人の教師に負担をかけることはできない。
 美人は、青白い輝きを放つ刀を閃かせ、羅生に飛びかかった。
 渾身の力を込めて、雷師を振り下ろす。
 ガツンッ!
 火花が散った。
 羅生の上一組の腕が、美人の攻撃を受け止めている。
 残る下一組の腕が、美人の胴体を切り裂こうと剣を左右同時に薙ぎった。
 美人は反射的に後ろへ跳び去った。
 羅生の剣は虚しく宙を斬る。
 体勢を立て直して、美人は再度羅生に挑んだ。
 持ち前の身軽さを活かして、乱舞する四本の腕を巧みに躱す。
 羅生の隙を衝いて、彼の胸に雷師を突き刺した。
「貴様っ!」
 羅生がよろめく。
 しかし、美人の刀は羅生の皮膚にかすり傷を残しただけだった。
 魔物の強靱な肉体が刃を弾き返す。
 左の二の腕に熱を感じた。羅生の剣に斬りつけられたのだ。
「――くっ……!」
 美人は痛みに顔をしかめながら真横に飛び退いた。
 辛うじて、第二撃を免れる。
 左手がジワジワと灼けたような痛みを発し、深紅の液体が白い肌を滑る。
 対照的に、美人が突いた羅生の胸の傷は見る見る内に消えてゆくのだ。恐ろしいまでの回復力が羅生には備わっていた。
 しかも、彼は四本の剣を自由自在に操ることができる。おまけに怪力だ。美人の細い腕で繰り出した剣など易々と受け止め、弾き返してしまうのだ。
 ――どうすればいいのだろう?
 思案している間にも、羅生は接近してくる。
 美人は雷師を顔前に構え、攻撃に備えた。
 何としても、羅生の身体に雷師を打ち込まなくてはならない。
 肉体に深く刀身が侵入しなければ、《魔》を封じることはできないのだ。掠っただけでは、駄目なのだ。先の食人鬼との戦いで会得した知識である。
 あの鋼のような身体に一矢報いなければならない。
 ――だが、どうやって?
 美人は迫る羅生に対して後ずさる。
 羅生は、美人を逃すまいとして一気に距離を詰めてきた。
 が、その時――
 彼の動きがピタッと止まった。
 いや、止められたのだ。
「なっ、なにぃっ!?」
「光魔!」
 羅生と美人の声が重なる。
 光で創られた妖艶な翼が、羅生の身体を絡めていた。
「今よ、有馬くん!」
 薔薇子の指示が飛ぶ。彼女が密かに光魔を動かしてくれたのだ。
 美人は咄嗟に雷師をを握り直していた。
 左手の傷など気にしている場合ではない。今が、羅生を仕留めるチャンスなのだ。
「くそっ! 離せっ!」
 羅生が光魔の羽根の中で藻掻く。だが、光魔はしっかりと羅生を捕らえていた。
 美人は軽やかに跳躍する。刀は高々と振り上げられていた。
 ――何処を狙えばいい?
 羅生の鋼鉄のような皮膚を貫かなくてはならないのだ。最も効果的な部分を、一瞬の内に見極めようとした。
 フワリ。
 不意に、耳元に《何か》を感じた。自分のすぐ側だけ、空気が変わったのだ。
『額の目を――』
 何かが――誰かが囁いた。
 懐かしさを感じる若い女性の声。
 彼女が誰なのか、考えている余裕は美人にはなかった。
 声を聴いた直後には、既に羅生に接近していた。
 額に輝く縦長の目だけしか、美人の瞳には映っていない。
 美人は両手で刀の柄を掴む。
 跳躍した勢いに任せて、刀で額の目を狙った。
 光魔が雷師の余波を避けるように、素早く姿を消し去る。
 何も考えずに、美人はアーモンド型の瞳に刃先を叩き込んだ。
 手応えがあった。
 ガラスのように硬質的に見えた眼球だが、驚くほど柔らかい。
「ギャアァァァァッッッ!」
 断末魔の叫びが部屋中に響いた。
 羅生の表情が苦悶に凍て付く。
 続く光景は、光の洪水――
 清らかな青白い光が、全てを包み込んでいた。
 フッと刀を通じて手に伝わっていた手応えが無くなる。
 気がつくと、床に着地していた。
 カツン。
 青銀の玉が軽く床に衝突し、転がる。
「……お祖母様」
 玉を見つめる美人の唇から、言葉が零れた。
 耳元で囁かれた女性の声。
 それは、亡き祖母――榊総子その人の声だった。
 祖母が他界した時、美人は一歳にも満たない赤子だった。祖母の声など覚えているはずがないのだが確信はあった。彼女が自分に助言し、助けてくれたのだ。
 周囲を眺めるように見回したが、先程感じた空気のような存在はもう何処にも感じ取れなかった。
「よくやったわ、有馬くん!」
「怪我は大丈夫ですか?」
 薔薇子と西野が駆け寄ってくる。
 走れるところを見ると、薔薇子の傷は完治したらしい。
 西野は真っ先に流血している美人の左腕を手に取った。西野の手が傷口に添えられる。
「――つっ!」
 美人は鋭い痛みに眉根を寄せた。
 だが、激痛はほんの一瞬だけで、あとは何も痛くなどなかった。
 美人の視界の中で嘘のように血が止まり、傷口が塞がってゆく。西野の治癒能力の賜物だ。
「ハイ、もう平気ですよ」
「ありがとうございます」
 ニッコリ微笑む西野に、美人は軽く頭を下げた。左腕を動かしてみるが、痛みは全く感じられない。
「凄いですね」
 心からの感嘆を込めて呟く。
「ホント。思い切って怪我できるわ。怪我しても、怪我しても、再生できるなんて、何か不死身みたいでカッコイイじゃない」
 薔薇子が朱塗りの唇に弧を描かせて、軽く笑う。
 西野は肩を聳やかした。さっきはあんなに苦しそうだったのに、怪我が治った途端、ケロッとしている薔薇子が少々恨めしかった。真剣に心配した分、損した気分だ。
「お望みとあらばどんな傷でも治して差し上げますけど、あまり無茶しないで下さいね。――さあ、こんな所でグズグズしている暇はないでしょう。さっさと先へ進みませんか?」
 西野が、苦笑混じりの言葉とともに部屋の奥を指差す。
 次の間へと続く扉が、三人を待ち構えていた。
「……もうすぐ零治に逢える」
 直感がそう伝えた。
 零治を――境王を身近に感じる。
 零治の姿をした境王との対峙を、脳裏で想像した。
 訪れる不安と緊張。
 それを押し退けるように扉の前へと進み出た。
 何も迷うことはない――


     *


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2009.07.21 / Top↑
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