ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 真紅の光線が珠詠の胸を貫く。
「きゃあぁぁぁっっっ!」
 人間と同じ赤い血液が、珠詠の傷口から噴き出した。
「珠詠さん!」
 美人はよろめいた珠詠の肩をそっと抱き留めた。
「邪魔しないでよ、珠詠!」
 真志保の厳しい声が飛ぶ。
「そこを退けて!」
 激しい怒りを放出させ、真志保は美人と珠詠へ歩み寄ってくる。
 手にはまたしてもレーザー光線のような光が集結し始めていた。
「……やめて」
 それを目撃して、珠詠が顔を蒼白にさせる。
「やめて……やめて真志保。やめて――やめてぇぇっっ!!」
 絶叫とともに珠詠の長い髪が宙を舞った。
 双眸は、真志保と同じように爛々とした赤光を放っている。
 ブワッ、と空気が変調した。
「いやぁっ!」
 真志保の身体が一瞬にして吹き飛ぶ。
 ガツンッッッ!
 鈍い音がした。
「――うぐっっ……!」
 真志保の口から、ゴボゴボと血の塊が吐き出される。
 彼女は、珠詠の力によって境王の玉座に叩きつけられたのだ。
 凄まじい威力だった。
 骨は砕け、内臓も潰れ破裂したことだろう。
 留まることを知らずに溢れ続ける血液の量が、それを物語っていた。
「……た……たま……よ……」
 血まみれの腕が、双子の姉へ向けて伸ばされる。
 珠詠はガクリと床に膝をついていた。
 肩が激しく上下し、赤い瞳から涙が零れている。
「剣を……魔封じの剣を取って、有馬くん。真志保を――殺して」
「――――」
 美人はダラリと下ろしたままの雷師を見つめた。
 いくら珠詠の頼みでも、それは素直にきけない。
 真志保は鏡月魔境の住人だが、確かに自分のクラスメイトでもあるのだ。
 いつも明るく笑顔を絶やさなかった、真志保。『曽父江くん、曽父江くん』と嬉しそうに零治に話しかける、そんな彼女の姿がチラチラと脳裏を掠めるのだ。
「お願い、有馬くん。私じゃ駄目なの! 魔封じの剣じゃなきゃ駄目なのよ! 昇華できないの……! 運命から解き放たれないのよっ! お願い――もう許して……助けて……私たちを助けてっ!」
 珠詠が涙で濡れた瞳で美人を見上げる。
 美人の胸に重い衝撃が訪れた。
 助けて。
 いつも珠詠は、自分に対して何か言いたそうだった。一昨日の朝もそうだ。
『もし、本当に有馬くんが超能力者なら――』
 その言葉の続きは?
 助けて。
 私と真志保を助けて!
 珠詠はいつもそう訴えていたのだ。
 美人は、無言で境王の玉座の前へ移動する。
 雷師ならば断ち切れるのだろうか?
《鏡月魔境》という呪われた因果を――運命を。
「……あり…ま……くん……」
 真志保は哭いていた。
 珠詠に吹き飛ばされたせいで、もう残力がないのだろう。珠詠に向かって伸ばされた腕は急速に力を失い、玉座から放り出された。
 唇が音を成さずに二度動く。
 その後、唇は僅かだが弧を描いた。
 微笑んでいる。
 美人は一度真志保から目を逸らし、瞼を閉ざす。
 次に目を開いた時には、しっかりと真志保を見据えた。
 努めて顔には何の表情も浮かべずに、美人は雷師を両手で構えた。
 そのまま、真志保の胸を標的として突き刺す。
 悲鳴はあがらなかった。
 青白い光が真志保の身体を包み込む。
 青銀の玉が玉座に転がり――真志保の姿は完全に消失した。
 美人は唇を噛み締め、真志保であった玉を拾い上げる。
 死ぬ間際、真志保の唇が二度動いていた。
 一度目は『ごめんなさい』
 二度目は『ありがとう』と――
 魔性を昇華された今、彼女が憎悪の念に囚われることはないだろう。
 助けたんだ。
 美人は強引に己に言い聞かせた。
 そうでもしなければ、やり切れない。
『殺した』とは考えずに『助けた』と思い込まなければ……。
「……珠詠さん」
 美人は泣き崩れている珠詠の傍へ行き、片膝を付いた。
 珠詠の白い手の中に、真志保であった玉を優しく包み込ませる。
「ありがとう、有馬くん。――次は、私を助けて」
 解放して。
 懇願の眼差しが向けられる。
 美人は彼女に伝えなければ背と思ったが、適切な言葉を見つけられずに結局口を噤んでしまった。
 珠詠を手にかけるのは、真志保の時よりも更に胸が痛む。
 自分はこの少女が好きなのだ。
 夜の美しさを醸し出す、神秘的な少女が……。
 僅か一時、静寂が訪れる。
 美人と珠詠は互いにじっと見つめ合っていた。
 もう一度、美人が何か言葉を紡ごうと試みた時――
『それ以上、余の巫女を殺されては困るな』
 機を見計らったように、《彼》の声が聞こえた。



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2009.07.21 / Top↑
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