ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 気配すら感じさせずに、《彼》はそこに立っていた。
 皆の視線が一斉に集中する。
 二つの玉座の間に《彼》は悠然と佇んでいた。
「――境王様!」
「零治っ!」
 珠詠と美人の驚愕の声が室内に木霊する。
 黄金色の麗人は冷たい微笑みを浮かべていた。
《彼》――零治の姿をした境王は美人に視線を向け、薔薇子と西野を見、最後に珠詠に視点を定めた。
『余を裏切ろうとした罪は重いぞ、珠詠』
「そ、そんなつもりでは――キャアッ!」
 珠詠の身体が宙に浮く。そのまま彼女は、見えない糸に操られるように境王の玉座に座らされた。真志保が昇華した場所だ。
『咎めは後だ。おまえは、そこで大人しく見物しているがよい』
 冷ややかに述べて、境王は玉座から離れる。
 珠詠は、人形のようにピクリとも動かなくなってしまった。境王の力に拘束されているのだ。
 美人は、優雅に階段を下りてくる境王を食い入るように見つめていた。
 境王が歩く度に、金色の光の粒子が飛び散る。
 瞳も髪も豪奢な黄金色。額には不可思議な文様が浮かび上がっている。
 零治であるはずなのに、全くの別人だ。
「零治の身体を返して下さい」
 美人は物凄い剣幕で境王を睨んだ。
『この身体は余の物。返す気などない』
 すぐに境王の冷笑が浴びせられる。
「黙れっ!」
 美人は素早く立ち上がり、雷師を構えた。
『ほう。ソウコの《魔封じの剣》を持っているのか。それは厄介だな』
 大して『厄介』ではなさそうな口調で境王は述べる。
 だが、彼が雷師を嫌っているのは察することができた。総子は、彼の妃だったのだ。その刀の威力は、彼自身がよく知っているだろう。それに、きっとこの刀が、境王を完全に斃すことのできる唯一の武器だ。
 美人は境王との距離を措くように軽く後ろに跳び去った。
『どうしても、余の邪魔をするのか?』
「零治を助けるために――」
 美人は跳躍した。
 素早い動きで境王に詰め寄り、刀を振り下ろす。
 青白い光が刀身から放出される。
『ソウコが余を裏切ったりしなければ、こんなことにはならなかったのだぞ!』
 境王の双眼がカッと見開かれ、金の波動が全身から漲った。
 強い力。
 ――しまった! 
 美人は咄嗟に雷師をを楯にしたが、間に合わなかった。
 凄まじい力が荒波のように押し寄せてくる。
 転瞬、美人は後ろへ吹き飛ばされた。
 立ち並ぶ水晶の柱に激突する 
 だが、思っていたような衝撃は訪れなかった。
 いつの間にかオレンジ色の光が、美人の全身を包み込んでいたのである。それが、クッションのような役目を果たしてくれたのだ。
 西野が結界で護ってくれたのだ。
「あなたの敵は、美人くんだけではありませんよ」
 西野の声に、境王は不服そうに片眉を跳ね上げた。
『小癪な』
 境王が第二撃目を繰り出そうと、掌を西野へ向ける。
「遍く天地の恩恵の許に力を得よ。汝の主・黒井薔薇子の名に於いて命ずる。目の前の魔に裁きを――光魔と共に甦れ、天の剣・地の剣!」
 境王の攻撃よりも早く、薔薇子の唇が呪文を紡いだ。
 部屋全体が眩く輝く。
 境王の身体を光が貫いた。
 頭上からは紫色の稲妻。足元からは炎のような閃光――
『光魔か』
 光に貫かれたまま、境王はフッと皮肉げに笑った。
『確かに、光魔なら余を斃せるかもしれぬな。だが、この肉体ごと消滅してもよいのかな?』
「――やめなさい、光魔っ!」
 薔薇子が焦燥も露に制止の命令を下す。その表情は逼迫していた。
 光魔は主人の言うことを従順に聞き入れた。あっという間に、境王を串刺しにしていた光源が消え失せる。
 薔薇子はホッと胸を撫で下ろした。次いで、恨めしそうに境王を睨めつける。
「卑怯な男ね」
 境王は零治の身体を楯にとったのだ。『自分が死ねば零治も死ぬ』と。彼は、人質の使い道をよく弁えている。
『卑怯とは酷い言われ様だ。三人がかりのそちらの方が、余ほど卑怯ではないのかな? ――貴様らは余計な手出しをするな』
 境王の瞳が一際明るく輝く。
 間髪入れずに、西野と薔薇子の身体が吹き飛んだ。
 ドンッ!
 ガツンッッ!
 水晶の柱に二人の身体が激しく打ちつけられる。
 苦しげに呻きながら二人は床に倒れ伏した。



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2009.07.21 / Top↑
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