FC2ブログ
管理画面
ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Wed
2009.05.27[23:03]
 ――この家は腐臭に満ちている。
 その腐敗臭には、サラ・エドワーズという魔女の妖しげな芳香が調合されていた。
 樹里は父から聞きかじった今までの経緯を思い出して、不快さに眉根を寄せた。
 サラは、樹里が幼い頃から平気で忍以外の男を家に連れ込む女だった。
 ――あの女は魔女だ。
 サラ以外の女性も、彼女と同じ魔性のように感じられてならない。
 女は汚い。
 狡賢く醜い――そして裏切る。
 そこから樹里の女嫌いは始まったのだ。
 女は魔物だ。
 近寄れば、男は喰い尽くされてしまう。
 だから接近してはいけないし、女を傍に寄せてもいけないのだ。
 樹里はサラを母親だと認めたことはない。
 彼女を激しく憎んでさえいる。
 決して口に出しては言わないが、忍は日一日とサラに似てゆく樹里を目にすることが苦痛のようだった。
 そのせいなのか、あまり家に寄りつかない。
 たまに帰ってきても、樹里の顔を正面から見ようとはしなかった。
 サラに酷似する容貌が災いし、樹里と父の間には奇妙な壁が立ちはだかってしまったのだ。
 母親の愛情を知らないのも、女性に嫌悪を抱くようになったのも、父親から扱いに困窮されているのも、何もかも――全てサラのせいだ。
 サラのように艶めかしく、淫志の強い魔女が傍にいなければ、忍も自分ももっと楽になれるかもしれないのに……。
 ――生まれてこなければよかった。
 そうであれば、忍は気兼ねせずにサラと離婚できたのかもしれない。
 樹里という息子が存在するばかりに、忍はサラとの偽りの夫婦生活を演じ続けなければならないのだ。
「とっくに離婚していても、おかしくないのにね」
 苦悩の塊を吐き出すように深い溜息をつく。
「あんな女、大嫌いだ。あの女の分身のような自分は――もっと嫌いだ」
 虚しい呟きが唇から滑り落ちる。
 しかし、その言葉を受け止めてくれる者もはね除けてくれる者もいない。
 見てくれだけは豪華なこの家の実体は、朽ち果てた廃墟だ。
「あの女のことなんて、どうでもいい。水柯に電話しなきゃ」
 ふと受話器を掴む手が目について、樹里は本来の目的を思い出した。
 今は、放蕩の極みを尽くしている母親のことよりも、辛抱強く自分を支えてくれる幼なじみのことを第一に考えなければならない。
 受話器に触れている手に力を込め、持ち上げる。
 ピンポーン、ピンポーン。
 貴籐家の番号をプッシュしかけた時、来訪者を告げるインターホンが鳴り響いた。




← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト



 
テーマ * 学園小説 ジャンル * 小説・文学
編集[管理者用] このページのトップへ

 

 
Copyright © 2020 言葉のさざなみ, all rights reserved.