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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Tue
2009.07.21[21:54]
 跋



 深い緑色の群れが行列を成していた。
 私立聖華学園へと向かう生徒の大群だ。
『連続猟奇殺人事件』で一週間休校となっていた学園は、今日より平常授業を再開するのだ。『殺人犯未逮捕』という不安を残しながらも……。
 それでも、生徒たちはいつものように談笑しながら登校している。
「よおっ、ビジン!」
 不意に、後ろから抱き着かれて有馬美人は驚いた。
「――零治っ!」
 非難たっぷりの声を浴びせる。
 ついでに絡みつく腕を邪険に振り解いた。
 背後を顧みると、幼なじみの曽父江零治が悪戯な笑みを浮かべて立っている。
 久し振りに逢う零治を見て、美人は僅かに眉根を寄せた。
「どうしたの、その髪?」
 派手な金色だったはずの髪が、今日は見事なオレンジ色に染められているのだ。
 派手なことには違いないが、長年金髪を自慢にしていただけに今回の変貌は意外なものがあった。
「別に。金髪に飽きたからオレンジにしただけ。――似合うだろ? カッコイイだろ?」
「……そうだね」
 子供のようにはしゃぐ零治に、適当に相槌を打っておく。
「おっ、惚れ直すなよ」
「…………」
 美人は今度は何も言わずに歩調を速めた。
 こんな奴につき合っていたら切りがない。
「何だよ、ビジン! 冷たいなぁ」
 零治が不服そうに呟き、隣に並ぶ。
「おっはよう! 有馬くんに曽父江くん!」
 後ろから二人の背中をポンポンと叩き、誰かが追い越して行く。
 長い巻き毛に深紅のスーツ――見事な凹凸ボディは、数学科教師の黒井薔薇子のものだ。
「朝からお熱いわね、二人とも。よかったじゃない、前と変わらず相思相愛で」
 振り向き様に意味深な言葉と妖艶な微笑みを残して、薔薇子は生徒たちの波に紛れてしまう。
「相変わらず、変なセンセ」
 零治が小首を傾げているところへ――
「零治くん、美人くん、遅刻しますよっ!」
 タッタッタッタッと、駆け足でやって来た青年が声をかける。
 フレームレス眼鏡がよく似合っている保健医の西野智弘だ。
「おお、美人くん、今日は一段と美しいですね! 不具合が解消されると、やっぱり人間って綺麗になるんですね」
 美人にニッコリ微笑みかけると、西野は再び駆け足で生徒の間を擦り抜けていった。
 美人は頭痛が起こりそうなのを堪え、片手で額を押さえる。
「ウチのガッコって、変な教師ばっかり……」 
 美人の言葉を代弁するように、零治がボヤいた。
 それから、急に美人の顔を覗き込むのだ。
「そういえばさ、オレ、自宅待機の頭二日間、あんまり記憶ないんだけど……。おまえ、一緒にいた?」
「――いないよ。僕が一週間、風邪で寝込んでたの知ってるだろ。ずっと家で大人しくしていたよ。どうせ零治は、僕が苦しんでいる間も遊び呆けていたんだろうけど……。記憶が曖昧なのは、零治が間抜けだからだよ」
「あっ、酷いなぁ、ビジン。――まっ、確かに間抜けだからしょうがないけどさ。酒呑んでもいないのに記憶があやふやなんて、オレってホントに馬鹿だな」
 零治が豪快に笑う。 
 記憶が不明なことなど、彼にとってはどうでいい瑣事なのだろう。
「二、三日、記憶がなくても別に困らないしな。記憶欠如の間に何かやらかしていても平気だろ。美男子は何しても許されるもんな。ああ、オレって罪作り」
「――馬鹿」
 美人は零治に冷たい一瞥を与え、スタスタと歩き始める。
「あっ、ビジン! おまえ、冷たすぎるぞっ!」
 零治が慌てて後を追ってくる。
 そして、懲りもせずに後ろから抱きつくのだ。
 美人の顔に微笑みが浮かんでいるのを、彼が知ることは一生ない。


 晴れた秋空の下、渋い緑色の群れは純白の校舎に吸い込まれてゆく――




                       《了》



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