ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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一.微睡み  



 夕暮れの街を、足速に人々が往来している。
 茜色の夕日の美しさに気付きもせずに、無数の人間が徘徊していた。
 北海道のほぼ中央に位置するA市。
 志木柾士(しぎ まさし)は、正午近くに母方の祖母が住むこの地に到着した。
 五年振りの訪問である。
 柾士は、A市神楽宮(かぐらのみや)に存在する祖母の家で昼食をとった後、JRに乗って三十分――街の中心部へやってきた。
 それからメインストリートである歩行者天国を、もう何時間もブラブラとしている。
 夏と秋の狭間――九月上旬。
 北海道の気候は涼しく、肌に心地好い。東京の蒸し暑さに比べたら、正に天国だ。
 だが、幾ら涼しくても長時間歩けば疲れる。柾士は足を休めようと、側にあったベンチに腰かけた。
 シャツのポケットから煙草を取り出し、口にくわえる。
 火を点けようとしたところで、ふと動きを止めた。
 目が一点に集中する。
 正面のビルに背を凭せ掛けるようにして、一人の少年が座り込んでいたのだ。座っているというよりも、蹲っているに近い。
 長い黒髪に縁取られた、白皙の美貌。
 純和風の顔立ちは、日本人形を思わせる。
 年の頃は十五、六歳だろうか?
 漆黒の闇を想わせる一重の双眸が、じっと柾士を見据えていた。
 ――何……だ……?
 訝しさに目を細める。
 少年の瞳は、生気が全く感じられないほどに冷たく凍て付いている。その空虚な双眸のせいか、死人に視られているような異質感に捕らわれ始めていた。
 ――幽霊?
 考えて、柾士はゾッとした。
 夕方から、そんなものになどご対面したくはない。
 ――早くこの場を離れよう。
 そう思うのだが、身体が金縛りに遭ったように微動だにしない。
 少年に魅入られたかのように動けない。
 額から冷汗が流れ出した時、
 カチャリ……シュポッ!
 隣でライターの点火する音が聞こえた。
 慌てて自分の隣を見遣る。
 身体が動くことを不思議に思ったが、それは脇に立つ人物を目にした瞬間、一気に消え去った。
 男が立っていた。
 柾士とさほど歳の変わらないであろう若い男だ。
 しかも美しい。その美貌の中で、憂いた双眸が妙に印象的だった。
 ――どことなく、壁際で蹲る少年と似ている。
 そこまで考えて、柾士はハッと目を見開いた。
 青年の視線が、幽霊らしき少年の方にピタリと据えられていたからだ。
 視線をビルへと戻す。
 しかし、不可思議な少年の姿は既になかった……。
 ――やはり幽霊だったのだろうか?
 釈然としない気持ちで、隣の美青年を見上げた。
 青年はビルに目を向けたまま、優雅に紫煙をくゆらせている。
 煙草を持つ左手――中指に嵌められた銀細工の指輪が一際目立っていた。
「あっ……あの――」
 柾士は思わず青年に声をかけていた。無性に、自分が今見たものを証明したい気分になったのだ。
「今、あそこに男の子がいませんでしたか?」
 突然の問いかけに、青年は顔色一つ変えなかった。
 奇妙な質問に驚いた様子もなく、探るような眼差しを柾士へ注いでいる。
「いいえ」
 やがて、青年は静かに口を開いた。
「そっ、そうか。錯覚かなぁ? おかしいな。確かに見えた――」
「気をつけて下さい」
 不意に、青年が柾士の言葉を遮る。
「隙を見せると――鬼に喰われますよ」
 柾士は驚きに瞠目し、青年を見上げた。
 言葉の真意が全く解せなかった。それに、初対面の人間にそんなことを言われる所以はないはずだ。
 青年は、それ以上は何も言わずに踵を返し、柾士から離れてゆく。
「――あっ、待って!」
 柾士は立ち上がり、青年の後を追った。
 しかし、青年の姿は何処にも見当たらない。人込みに紛れたとは考えにくかった。忽然と姿を消したのだ。
 ――着いた早々おかしなことばかりだ。
 憮然とした表情で、祖母の家へ帰宅するためにJR駅へと向かう。

 陽が沈みかけていた――


     *



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2009.07.22 / Top↑
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