FC2ブログ
管理画面
ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sun
2009.05.17[01:00]
 群がる野次馬たちを押し退けて前に進む。
 野次馬の最前列までやって来た瞬間、水柯の気分のよさは一気に吹き飛んだ。
「田端先輩、好きです。つき合って下さい!」
 ギャラリーと化した生徒たちの輪の中心で、一人の少女が勢いよく頭を下げる。
 頭を下げられた相手は、興味なさげに少女を見返した。
 少女を見る双眸は宝石のような翡翠色をしており、その目に軽くかかる髪は見事なプラチナブロンドだった。
 朝陽を受けてキラキラと輝く髪を目にした途端、水柯の顔はまたしても引きつれた。
 見世物になっているのは、紛れもなく幼なじみの田端樹里だったのだ。
 あの髪と瞳と恐ろしく整った顔立ちでは、見間違えようがない。
「イヤだね」
 一拍の間を措き、樹里が酷薄に告げる。
 転瞬、野次馬の中から女生徒たちのどよめきがわき上がった。
「あの子、樹里先輩に告白してるわよ」
「バカよね。相手にされるわけないじゃない」
「田端先輩の女嫌い、知らないんじゃないの」
 そんな類の囁きを耳にしながら、水柯は更に顔をしかめた。
 女生徒たちの言う通り、樹里は女嫌いなのだ。
 それも上に『無類の』とつくほどである。
 イギリス人の血を引く樹里は、眩い白金髪と翡翠色の双眸を生まれながらにして持っていた。
 加えて彼は、モデルであった母親譲りの美貌をも持ち合わせている。
 綺麗な弧を描く眉に、切れ長で涼しげな感じのする双眸。
 スッと筋が通っている高い鼻梁。
 色白で、手足がスラリと長い均整のとれた身体。
 そんな美形を周囲が放っておくわけもなく、入学以来、樹里に告白する女子は後を絶たない。
 だが、その全てを樹里は悉く無視していた。
 瞬く間に『田端樹里=女嫌い』の噂が流出したが、それでも世の中には勇気を振り絞って告白してくる女の子がいるものなのだ。
「あたし、先輩のことが好きなんです」
「僕は好きじゃない」
 冷ややかな声と視線で、樹里が少女を拒絶する。
 少女は金縛りにでも遭ったかのように硬直し、唇を震わせた。
 その直後、
「こんな朝っぱらから何してんだよ、樹里」
 緊迫した場にそぐわぬ陽気な声が高らかと響き、長身の影が颯爽と姿を現した。
 栗色の髪を持つハンサムな少年だ。
 その、口元にいつも微笑を刻んだような少年の顔を見て、水柯はギョッとした。
 間の悪い時に、間の悪い男が出現したものである。
 水柯は引きつりを通り越して完全に凍りついてしまった顔で、長身の少年を眺めた。
 少年は、樹里の親友である園田充。
 樹里とは対照的に自他ともに認める女好きである。
 こんな場面に充が首を突っ込んで、状況が改善された例しはない。
「充には関係ない」
 水柯が悪い予感を覚えながら事の成り行きを見守っていると、樹里がチラと充を一瞥し、ぞんざいに応じた。
 それだけで充は事態を察したのか、口の端を軽く歪めて笑う。
「なるほどねぇ。いつものようにあっさりフッちゃったわけだ。けど、そんなに冷たくするなよ。この子、泣いちゃうよ」
「僕は、イヤなものはイヤだからね」
 樹里が興味の欠片も窺えない眼差しで少女を見遣る。
 少女の顔がサッと青ざめた。
 充が嗜めるような視線を樹里に走らせ、次に満面の笑顔で少女の顔を覗き込む。
「君もそんなに思い詰めないで。可愛い顔が台無しだよ。それに、樹里がこんな性格なのは重々承知していたはずだよね」
「それは……そうですけど」
「玉砕覚悟で告白して、君はフラれた」
「そ、そんなストレートに言わなくても」
「でも、現実にフラれたんだ。だったらさ、樹里のことはさっさと諦めて、俺とつき合わない? 俺、どんな女にも優しいよ」
 充の言葉に、少女の瞳が大きく見開かれる。
 その双眸から透明な雫が零れ落ちた。
「ひ、酷い……。酷すぎます! 田端先輩も園田先輩もサイテーです!」
 精一杯の捨て台詞を残し、少女は身を翻した。
 そのまま脇目も振らずに猛スピードで校舎へと突進してゆく。
「樹里が悪い」
「充が余計なこと言うからだろ」
 充と樹里が、互いに責任を転嫁するように顔を見合わせる。
 その瞬間、今まで傍観していた水柯の頭で何かがプチッと切れた。
 ――乙女の夢と恋心を無惨に打ち砕くなんて、許せない!
 水柯は込み上げてきた怒りに任せて憤然と足を踏み出した。




* NEXT  * INDEX  * BACK
スポンサーサイト



 
テーマ * 学園小説 ジャンル * 小説・文学
編集[管理者用] このページのトップへ

 

 
Copyright © 2020 言葉のさざなみ, all rights reserved.