ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 木々の緑が眩しい。
 時折訪れる微風が、梢をサワサワと揺らしている。
 柾士は、興奮状態で森の中の一本道を辿っていた。
 つい先刻目にした冷泉兄弟のことが忘れられなかった。
 古き血統故か、摩訶不思議な能力を備えているという冷泉一族。
 秘密と謎に満ちた貴き一門。
 直系の兄弟は、神秘的な壮麗さを全身から放出させていた。
「何か、近寄っちゃいけない感じだよな」
 呟きながらも、柾士の顔は弛緩していた。
 柾士は、嵯峨から『いつでも屋敷に遊びに来て下さい』と、喜ばしい言葉を賜ってきたのだ。当主直々のお招きだ。冷泉家へのフリーパスを手に入れたも同然である。
 冷泉の森を抜けると、百メートルほど先に祖母の家が見えた。
 柾士は清々しい青空を見上げ、深呼吸した。
 一服しようと、傍に放置されていた丸太の上に腰をかける。
 シャツのポケットから煙草とジッポを取り出す。
 煙草の箱を開けて、ほんの一瞬だけ動きを止めた。
 中が空だったのをすっかり忘れていたのだ。
 己の迂闊さに舌打ちを鳴らした時、
「――どうぞ」
 静かな声と共に、目の前にスッと煙草が差し出された。
 何気なくそれを受け取る。
「ありが……と――ええっ!?」
 素直に感謝しかけて、柾士はギョッとした。
 ――人の気配なんて全くしなかった 
 慌てて立ち上がり、勢いよく飛び退く。
「……酷い反応ですね」
 大して『酷い』とは思っていないような、冷静な声音が柾士に投げられる。
 眼前に一人の青年が佇んでいた。
 彼は至って平然とした態度で、自分の口にくわえている煙草に火を点ける。
「なっ、なっ、何でっ!? 君は昨日の――」
 柾士は貰った煙草を地面にポタリと落としながら、驚愕の眼差しを彼に注いだ。
 昨日の青年だった。
 街で、意味不明の言葉を残して忽然と姿を消した、あの青年だ。
「ええ。昨日、お逢いしましたね」
 青年が再び煙草を柾士に手渡す。
 茫然と柾士が煙草をくわえると、ライターで火を点けてくれた。端整な顔立ちは、あくまでも平淡としている。
「あ、あっ、逢ったけど、どうして君がここにいるの? 昨日といい今日といい、何でいきなりオレの前に現れるんだよ?」
 柾士は混乱を隠せずに、喚くように青年を問い詰めた。
 青年は二度も気配を感じさせずに自分に近寄っているのだ。驚くな、と言う方が無理である。
「たまたま、通りかかっただけですよ」
 青年が軽く肩を竦める。そんな動作でさえも、洗練されていて流麗だった。
「嘘だ。君はオレをつけてるだろ? 何かオレに恨みでもあるのかっ!?」
 初対面同様の青年に向かって、柾士はビシッと人差し指を突きつけた。
 柾士の脈絡のない言葉に、青年が口許に微かな笑みを閃かせる。
「……面白い発想をする人ですね。本当に偶然なんですけれど。――鬼の気配を手繰ってきたら、ここに辿り着いただけですよ」
 意味深に述べながら、青年は冷泉家の方へ軽く視線を流した。
「えっ?」
 柾士は訝しさにきつく眉根を寄せた。
 鬼。
 確か、昨日も青年は言っていた。
 鬼に喰われますよ――と。
「鬼って……?」
「さあ? 僕も、まだ姿を見ていませんから。そのうち解るでしょう」
 青年はシャツのポケットらから携帯灰皿を取り出すと、煙草の吸い殻をそこへ放り込んだ。流れるような動作で、また灰皿を仕舞う。
「よく解んない人だな」
 怪訝な眼差しで青年を見遣る。彼の言葉はいつも理解不能だ。
「こんな田舎に何しに来たの?」
 馴れ馴れしく柾士は尋ねた。
 不思議と、怪しい青年に対して嫌悪感は湧いてこなかった。
 質問したのは、青年から《都会の匂い》を嗅ぎ取ったからだ。同じ都会に住んでいた柾士だからこそ察することができる。
 青年は、この田園地帯の中で浮いていた。浮世離れしたような青年に、この神楽宮はそぐわない。
「鬼退治に――」
 冗談のようでもなく、青年が平然と告げる。
 右手が、左の中指に嵌められている銀細工の指輪を大切そうに撫でていた。
「鬼を捜してるんです」
 繰り返される言葉。
 青年の整った顔を薄い笑みが彩っていた。ゾッとするほど美しく冷たい微笑みだった……。
「名前……名前、訊いてもいいかな?」
 相変わらず理解不能な青年の言葉を無視することに決め、柾士は次の質問を続けた。
『また逢える――逢いたい』という気持ちが、そうさせた。
 青年の瞳が指輪から柾士に移される。彼は当惑したように首を傾げた。
 しばしの沈黙の後、彼は決断したように口を開いた。
「……ヨシヒト」
 美貌に物憂げな微笑みが広がる。
「有馬美人――」


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2009.07.22 / Top↑
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