ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 怖い。

 僕は――怖い。

 真っ暗な視界の中で、冷泉安芸は同じ言葉を何度も繰り返していた。
 意識は覚醒しているはずのに、辺りは闇一色だった。
 
 ――怖い。

 眠るのが……怖い。
 眠れば、夢を見てしまう。自分を真の闇に引き摺り込む悪夢だ。
 そして夢の中に現れ、自分を誘うのは――彼だ。
 彼が闇の淵から自分を手招きする。『こっちにおいでよ』と……。
 二日後、十六の誕生日を迎える。
 その時、彼はやってくるだろう。自分を殺しに。
 一年前の同じ日――彼を殺せなかった自分の咎だ。
 ……自分にはできなかった。彼を殺すこと――救うことを。
 彼のことが大好きだから。
 あの日、彼は自分を殺そうとした。自分も彼を殺そうとし――失敗した。
 そのおぞましい事件以来、己が意志で心を閉ざした。
 彼に殺されかけた衝撃。
 彼を救えなかった罪悪感。
 愛する存在を同時に二つも失った痛み――その全てに耐え切れなくて。
 全ての罪が己の薄弱な精神に在ることを、頭では理解している。
 だが、心が現実を拒絶した。真実を否定したがった。だから、心を闇に葬り去った。
 逃げたのだ。

 ――そう、おまえは逃げたんだよ、安芸。

 不意に、誰かが自分を呼んだ。
 足許を見下ろすと、いつの間にか血の池が出現していた。
 深紅の水面に白い華が一つだけ咲いている。

 ――安芸……安芸。

 よく目を凝らして見ると、それは華ではなく人間の腕だった。
 白い手が『おいで、おいで』と手招きしている。
 自分の足が誘われるように前に出るのを、安芸は止められなかった。
『安芸くん! 安芸くん!』
 今度は、別の誰かが遠くで自分を呼んだ。
 それには構わずに、安芸は白い手に向かって一歩、また一歩と進んでいった――


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2009.07.24 / Top↑
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