ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「安芸くーん! 安芸くん、何処にいるのっ!?」
「安芸様!?」
 柾士と公暁は、叫びながら森の中を捜索していた。
「ねえ、櫻町さん。安芸くん、いつもはどの辺にいるの?」
「大抵は、この辺りにいるんですけど……」
 公暁が申し訳なさそうに応じる。
 二人は五分以上も森の中を走り回っているのだ。
 だが、安芸の姿は依然として見付からない。
「オーイ、安芸くん! ――っと、うわっ!?」
 何の前触れもなしに脇の茂みが揺れたので、柾士は驚いて立ち止まった。
 ガサガサッ、と木の葉が騒めく。
 咄嗟に安芸だと思った。
「安芸くん?」
 柾士は喜びに顔を輝かせたが、それは一瞬にして落胆へと変わった。
 ニャア。
 可愛らしい鳴き声が頭上から降ってくる。
 直後、木の上から白い物体が飛び降りてきた――子猫のユキだった。
「何だよ、ユキ? ぬか喜びさせるなよ!」
 柾士は不服そうにユキを睨みながら、その身体を腕に抱き上げる。
 ンニャ……ニャア、ニャア、ニャア!
 だが、ユキは柾士の腕から逃れようというのか激しく身じろぎする。
「志木様の猫ですか?」
「う、うん。コラッ、ユキ、暴れるな!」
 ンニャ! ニャア!
 より一層激しくユキは暴れ出す。
 子猫は柾士の腕から擦り抜けると、一回転しながら華麗に地面に着地した。
「変わった猫ですね。人間の言葉が解るというか――何か喋っていませんか、この猫?」
 公暁がしげしげとユキを見下ろす。
「えー? そーかなぁ?」
 柾士は疑わしげな視線をユキへ注いだ。
 ンニャン!
『そうだ』とでも言いたげに、ユキは一鳴きする。その尻尾が勢いよく振られた。
「……『ついてこい』って、言ってるんじゃありませんか?」
 公暁がユキと柾士の顔を交互に見比べる。
「う~ん……まっ、櫻町さんが、そう言うなら……。――ホラ。ユキ、行けよ!」
 柾士は、ユキが人間の言葉を理解しているとは露ほども信じていない。だが、不可思議な能力を秘める公暁の言葉は、素直に信じることにした。
 足先で軽くユキのお尻を突っつくと、子猫は恨めしそうな眼差しを柾士に向け、長い尻尾で柾士の脹ら脛を叩いた。
 それから、柾士の二撃目を怖れるように猛ダッシュを開始するのだ。
「――オイ、ユキッ!」
『可愛くないなぁ!』と胸の内で吐露しながら、柾士はユキを追いかける。公暁も自然と柾士に並んでいた。
 ユキは目的を持って走っているようだ。そこへ二人を導こうとしているのだろう。
 一分も経たない内に、ユキは走る速度を緩めた。
 柾士と公暁も慌てて足にブレーキをかける。
 ニャンと一鳴きし、ユキが右手の草むらを飛び越えた。後から柾士と公暁が続く。
 一瞬後、
「安芸くん!」
「安芸様!」
 柾士と公暁の声が重なった。
 視界に飛び込んできたのは、白いパジャマを身に付けた華奢な後ろ姿。
「安芸くん! 安芸くん!」
 叫ぶ柾士の目前で、安芸がゆっくりとこちらを振り返り――そして、地に崩れ落ちた。


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2009.07.24 / Top↑
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