ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「ねえ、充」
 徐に由香里が顔を上げる。
「樹里くんと――した?」
 続く彼女の質問に、充は絶句した。
 次に、驚きとおかしさで吹き出しそうになる。
 最後に唖然を通り越して、呆れた。
「アホか、おまえ。勝手に邪推するな」
「だって充、樹里くんのこと好きでしょう」
「そういう『好き』じゃない」
「私が樹里くんと『寝たい』って言ったら、頑なに反対したじゃない」
「誰だって反対するだろ。自分の恋人を親友に差し出すヤツがどこにいる」
 充は憮然としながら、由香里の髪に指を巻きつけた。
 どこをどう考えたら、そんな結論に達するのか、充には全く理解できなかった。
「充が樹里くんを好きじゃないなら、私に紹介してよ」
「あのなぁ、紹介するまでもなく何度も逢ってるだろ。口説きたいなら勝手にどうぞ――と言いたいところだけど、アイツはダメ」
「やっぱり好きなの?」
「どうして、そこに戻るかな。樹里は女嫌いなんだよ。由香里みたいなタイプは特にね」
「どうして?」
「アイツの母親に似てるから」
「じゃあ、しょうがないわね。男の子って異常に母親に執着するものね」
 由香里があっさりと意志を翻す。
 恋人の言葉を脳裏で反芻しながら、充は密やかに頬を引きつらせた。
 自分に突きつけられた言葉のように感じられて、苦々しさが込み上げてくる。
 それを誤魔化すように、充は由香里の唇を指でなぞった。
 由香里が艶笑を湛えたまま、その手をそっと押し退ける。
「――で、結局、本当は樹里くんのこと、どう思ってるの?」
「話を戻すな! どうも思ってないよ。俺、今、結構気に入ってる女がいるし」
「アラ、それは私のデータにないわね。どんな子?」
「深窓のお姫様――って、コイツがまた全っ然女らしくないんだな。何考えてるのか解らないし、掴み所もない」
 限りなく無表情に近い同級生の顔が脳裏をよぎる。
 凛とした態度で何人をもはね除ける、気丈な少女だ。
「私とは正反対ね。よかった。私と似た女だったら、充は私のところに帰ってこないもの。でも、違うのなら構わない。その子に相手にされなかったり、疲れたりしたら、たまには戻ってきてくれるものね、充は」
 由香里が満足げに微笑む。
 彼女の瞳には真摯な光が宿っていた。
 本気で言っているのだ。
「女って面妖なこと考えるよな」
 率直な感想を洩らし、充は由香里を抱き寄せてキスした。
 由香里の両腕が応えるように充の背中に回される。
「好きよ、充」
 耳元で囁かれる甘美な誘い。
 充は己れの欲望に忠実になろうと心懸けた。
 自分と由香里の位置を素早く逆転させる。
 シートに押し倒した由香里に唇を寄せたところで、
「ま、待って!」
 突然、由香里にストップをかけられた。
「何だよ。折角気分がノッてきたのに」
 充は唇を尖らせた。
 ここまできて中断させられるのは、男として不本意だ。
「誰も来ないなんて、嘘ね」
 由香里の顔に苦笑が広がる。
 彼女が充の後方を指差すので、仕方なく充は振り向いた。
 視線の先にはフロントガラス。
 そして――
「うわっ、最悪……!」
 充は張り裂けんばかりに目を見開いた。
 口からは悲鳴じみた叫びが飛び出す。
 学園正門前――街灯の下に何者かが佇んでいたのだ。
 街灯の明かりに照らされ、向こうからは車内が丸見えだったのかもしれない。
「アララ、災難ねえ」
 ひどく愉快そうに告げて、由香里がシートから上体を引き起こす。
 彼女は驚愕に強張っている充の顔を両手で捕らえると、外界へ見せつけるように唇を重ねてきた。
 充を解放すると、由香里は瞳に悪戯っぽい光を閃かせ、妖冶に微笑んだ。
 充の驚きなど歯牙にもかけず、街灯の下に立つ二人の人物に向けて楽しげに片手を振る。
「……嘘だろ」
 充は恐る恐る視線をフロントガラスの向こうへ戻した。
 錯覚であればいいと思ったが、それは現実としてしっかり存在していた。
 街灯の下に立ち尽くす二人組。
 それは紛うことなく美貌の親友と、その幼なじみの姿だった。
 驚愕と軽蔑の混在する二対の双眸が、充を凝視している。
 充の額から冷や汗が滴り落ちた。

     *



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2009.05.28 / Top↑
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