ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 秋の夜空に、美しい光彩を放つ星々が輝いていた。
 空が澄むほど空気は凍て付く。
 寒気が肌に纏わり付くのを感じながら、武村美弥は自転車を軽快に走らせていた。
 ファストフードのアルバイトを終え、終電で神楽宮に帰ってきたばかりだった。
 限り無く直線に近い国道は、行き交う乗用車も少なく、妙に森閑としている。
「何か、ヤな空。いつもと変わんないはずなのに、何だか――嫌な予感」
 自転車を操りながら独り言ちる。
 空には満天の星が煌めいているというのに、美弥の胸中には不安が芽生えていた。
 それを払拭するように首を横に振って、自転車を漕ぐ足に力を込めた。
「柾士おにーちゃん、公暁さんに訊いたかな?」
 胸に生じた不吉な影を心の片隅に追いやろうと、努めて別の事柄を考える。
 従兄の柾士は、神楽宮の伝承について詳しいことは知らないのだろう。
 知らないのならば、知らない内にこの地を去った方がいい。
 そう思うのだが、美弥はそれを柾士に告げられずにいた……。
「知らない方がいいのよ。美弥たちの裡に流れる血のことなんて」
 脳裏に優しい従兄の顔を思い浮かべる。
 刹那――
「――――!?」
 美弥は急に自転車のブレーキを引いた。
 目の前に、突如として黒い獣が現れたからだ。獣は赤く光る双眼を美弥へと注いでいる。
 美弥はゆっくりと獣に視線を据えた。
 驚きはあったが、恐怖はなかった。
「あなた……閻羅ね?」
 確認のように問いかける。
 獣は頷いたようだった。美弥を見る赤い双眸に殺意はない。
「どうして、そんな姿になっちゃったの?」
 獣を凝視しながら茫然と呟く。
 美弥は獣を知っていた。正確には、かつての獣を。
 美弥の知る獣は、輝く銀の毛に、青く澄んだ瞳を持っているはずだった。それが今は、黒い身体に血のような眼睛という禍々しい姿に変貌を遂げていた。額から生える一本の角だけがかつてのように銀色に輝き、その獣が自分の知っている存在だということの証明を果たしていた。
 獣は美弥の問いに応えることはせず、黒い巨体を身軽に翻して『ついてこい』というように首を振った。
「由羅くんが美弥を呼んでるのね? いいわ。連れて行って、閻羅。由羅くんの処へ――」
 美弥は笑った――泣き笑いの表情だった。



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2009.07.25 / Top↑
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