ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 午前零時に、由羅は九鬼のマンションへと帰宅した。
 腕に抱えた美弥の亡骸を自室のベッドに横たえ、すぐに九鬼の部屋を訪れる。
 由羅がノックもせずにドアを開けると、ベッドで本を読んでいた九鬼が怪訝そうに視線を上げた。
「こっちで寝かせてよ、九鬼」
 憮然とした表情で告げ、由羅はベッドに接近した。
「どうした?」
 唇の両端を皮肉げに歪めて、九鬼がジロジロと不躾な視線を注いでくる。
「死体が寝てる」
 由羅は素っ気なく答えた。
 九鬼は死体については何も追求してこない。ただ面白そうに由羅を見つめているだけだ。
 由羅は九鬼の返答を待たずにベッドに乗り込み、冷笑を湛える九鬼の傍らで身を丸めた。
 九鬼に背を向け、毛布を顔まで引っ張り上げる。
 美弥――と声に出さずに呟いた瞬間、自然と目から涙が込み上げてきた。
 憎んでいたわけではない。
 決して、憎んでいたわけではないのだ。だが――
「……もしかして、泣いているのか?」
 不意に九鬼が毛布をずらし、顔を覗き込んでくる。
 由羅はキッと九鬼を睨めつけた。
「泣いてない」
「珍しいな。おまえが感情的になるなんて」 
 九鬼の顔に意地悪な笑みが浮かぶ。
「何があったか知らんが――オレが慰めてやる」
 ニヤッと残忍に唇をつり上げ、九鬼が由羅の腕を強引に掴む。そのまま身体の位置を反転させられた。
 抗う間もなく、唇が九鬼の唇に塞がれる。
 その唇が首筋に埋められた時、由羅は大きく身体を震わせた。
 九鬼が苦笑しながら顔を上げる。
「安心しろ。血を吸ったりしない。おまえには、まだ『冷泉』でいてもらわなきゃ困るからな。最後の生け贄を殺し、華瑤鬼妃様が復活を遂げた暁には、おまえに残る『冷泉』の血を吸い尽くしてやるよ。そうすれば、おまえは完全にオレたちの仲間だ。完全に――オレのものだ、由羅」
 愉悦混じりの言葉を吐いて、九鬼は再び由羅の唇を吸った。
「九鬼のせいだ…。九鬼のせいで、ボクはもう……神には戻れない――」
 啜り泣きながら由羅は呻くように呟いた。
 再度、九鬼の顔が上げられる。心外そうな表情だった。
「責任はとってるつもりだが? オレはオレなりに、おまえを愛してる」
「――玩具か奴隷のように? ボクは華瑤鬼が復活するまでの道具でしょう」
「バカなことを……! いいか、覚えておけ。オレはおまえに惚れてる。じゃなきゃ、仲間にしようとはせずに、とっくにはらわた引きずり出して喰ってる。……冷泉には渡さない。おまえは、一年前のあの日からオレのものだ」
 九鬼の両眼がギラリと輝く。強い情欲と独占欲が相俟っていた。
 野獣のような粗暴さで、九鬼は由羅の首筋に吸いついた。
 由羅の脳裏に安芸と美弥の姿がチラつく。
 それを打ち消すように、由羅は九鬼にしがみついた。『何も考えるな』と、心に強く言い聞かせる。
 九鬼に身を委ね、きつく瞼を閉ざす。
 胸が痛い――心が割れる。
 ――ボクは堕ちてゆく……。


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2009.07.25 / Top↑
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