ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 ――ピンポーン、ピンポーン。
 再び、インターフォンが鳴る。
 柾士と美人は、素早く視線を交差させた。
「……こんな時間に誰だろう?」
 小首を傾げながら、柾士は立ち上がった。一乃はとっくに深い眠りに就いているだろう。自分が玄関へ赴くしかなかった。
 ドアを開けると、ユキが弾けたように玄関へ向かって疾駆し始める。
 柾士は客間に美人を残して、ユキの後に続いた。
 ドンドンッ! ドンドンッ!
 玄関のドアが激しく叩かれている。
「おばーちゃんっ! 柾士っ!」
 男らしい野太い声が、ドアの向こうで叫んでいる。
 すぐに声の主が誰だかピンときた。隣に住む伯父――勝彦のものだった。
「おばーちゃん! 柾士、いないのかっ!?」
 取り乱したような声が続く。
「今、開けるよ、伯父さん」
 柾士は勝彦の様子を怪訝に思いながらも鍵を外し、ドアを開けた。
 すぐに勝彦の逼迫した顔が視界に飛び込んでくる。
「柾士っ、おばーちゃんはっ!?」
「おばーちゃんなら、寝てるけど?」
 勝彦の狼狽振りは只事ではなかった。
 顔は蒼白で、目は血走っている。酷い焦燥感が全身から立ち上っていた。
「そうか。――みっ、美弥っ! 美弥は、来てないかっ!?」
 喉の奥から声を振り絞るようにして、勝彦が柾士を見上げる。縋りつくような眼差しだった……。
「来てないけど? どうかしたの?」
 柾士の答えに、勝彦はあからさまにガッカリしたようだった。表情が悲観的なものに変貌する。
 絶望に似た眼差しが柾士に注がれた。
「美弥が、いなくなった――」
 勝彦はそれだけを告げると、全身の力を使い果たしたようにその場にガクンッと膝をつき、深く項垂れるのだ。
「――えっ、何だって?」
 柾士は驚愕の眼差しで、勝彦を見下ろした。
「さっき……警察から電話があった。美弥の自転車が神社の入口で見付かった、って……。カゴには、カバンがそのまま放置されていて……」
 勝彦は呆けたように言葉を紡いでいる。
「美弥は……まだ家には帰ってきてない……。警察は、何かの事件に巻き込まれたんじゃないかって……捜査してくれると言っていた。誘拐か殺人の可能性が強い……と――」
 勝彦はそれ以上は言葉に出来ない様子で口を噤んだ。
「そんなっ……! 美弥が行方不明――?」
 愕然と呟く。
 あの明るい従妹が、誘拐――殺人?
 ――美弥は、そんな陰惨な出来事とは無縁の存在だ!
 柾士は、自分自身に信じ込ませるように胸中で強く叫んだ。
 まだ、殺人や誘拐と決まったわけじゃない。
 誘拐だとしても、きっと生きているに決まっている。
 フギャーッッ!!
 唐突に、ユキが恐ろしい鳴き声を発した。
 白い猫は毛を逆立て、玄関のドアを引っ掻いている。
 柾士は、その行動に急かされるようにして玄関のドアを開け、裸足のまま外に飛び出した。
 後に勝彦がノロノロとついてくる。
 夜の冷気を肌に感じた刹那、
「――――!?」
 柾士は瞠目した。
 落雷にも似た衝撃が、頭から爪先まで駆け巡る。
「ひいっ……!」
 咽喉に詰まらせたような勝彦の叫び。
 暗暗とした闇の中――遠く、何処かの田圃の上を青白い光が浮遊していた。
 無数の不吉な炎が一列に並び、ゆらりゆらりと揺らめいている。
 鬼火の群れ――美しくも妖しい葬列。
「美弥! ……美弥っっ!」
 勝彦の口から嗚咽が洩れる。
 柾士は、ゴクンと大きく息を呑み込んだ。
 遠くに見える鬼火は、一昨日の夜、目撃したものと同じ――《狐の嫁入り》
『土地の誰かが死んだ時に出よる』
 一乃の言葉が脳裏に甦る。
「美弥……御方様――御方様っ! 美弥を……どうか……御方様っ!」
 泣き崩れる勝彦。口からは、ひっきりなしに途切れ途切れの呻きが放たれている。
「迷信だ」
 柾士は両の拳を握りしめながら、揺れる怪火を凝視していた。
「迷信だ――迷信に決まってる」
 無意識に言葉が繰り返される。
 だが、柾士は、自分の言葉が説得力に欠けることを痛感していた。

 鬼火の群れは、死者の魂を冥府へと運んでゆく――



     「四.傷痕」へ続く



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2009.07.25 / Top↑
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