ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「裏門へ案内いたします」
 そう言って、魔法剣士ラザァがクラリスをリージャナータ宮殿から連れ出したのは、一時間も前の出来事だった。
 裏門の両脇にはしっかりと門番が立ちはだかっていたが、ラザァの一睨みで慌てふためきながら立ち去っていった。アダーシャ国内における魔法剣士の地位と権力と威圧感はかなり甚大であるらしい……。
 門番が去った後は、クラリスとラザァだけが夜の闇の中でシンシリアを待っていた。夜の闇とは言っても、宮殿から洩れる灯りのおかげで相手の表情が見て取れるほどの明度は保っている。
「ねえ、ラザァさん――」
 シンシリアとマイトレイヤーの帰りを黙って待っていることに飽き、クラリスは白き魔法剣士に声をかけた。
「どうして、ラータは僕を助けるの?」
 クラリスが率直に問うと、ラザァは少しだけ困ったような表情を湛えた。
「国家機密ですので、お答えできません」
 クラリスの正体を知っているラザァの言葉遣いは、ひどく丁寧だ。しかし、その内容は明らかな拒絶である。
 クラリスは不満も露わらに唇を尖らせた。
 めげずにもう一度問い質そうとした時、突然、誰かがクラリスの腕に飛びついたのである。
 クラリスはギョッとし、反射的に視線を己の腕へ落としていた。
 視界の中で、黒緑の髪が揺れる。
「ラータの妹っっ!?」
「内親王殿下!?」
 クラリスとラザァの驚きの声が重なる。
「よかった。間に合ったみたいね!」
 その対象となった少女――セリエは、悪びれもせずにニッコリと微笑んだ。
 クラリスは咄嗟に掴まれた腕を引き抜こうとしたが、セリエは微笑みを浮かべたまま強く腕を抱き込み、全く放そうとしてくれない。
「ラザァ、わたし、この人に着いて行くから、護衛よろしく」
「――え?」
「私がですか?」
 セリエの言葉に、クラリスとラザァはまたしても同時に瞠目した。
 一国――それも超大国のお姫様が、城を抜け出す、と言っているのだ。
 驚愕を突き抜けて、呆れに誓い感情をクラリスは抱いてしまった。
「何を仰っているのですか、セリエ様。王太子殿下がお許しにならなかったでしょう?」
 薄い水色の双眸をセリエへ落とし、ラザァが嗜める。彼も思わぬ主君の行動に唖然としているようだ。
「兄様は『クラリスのことが気になるなら、追っていけば』と、冷たい一言を下さったの。だから、何の心配もないわよ! わたし――この綺麗な顔がすっかり気に入ってしまったのっ!」
 心の底から悦んでいるような弾んだ声で告げ、セリエはクラリスの腕に頬を擦り寄せてくる。
 クラリスは口許を引きつらせてセリエを見下ろした。シンシリアに奪われてしまったものの、クラリスの中の一番は兄であるマイトレイヤーなのだ。当然のことながら、マイトレイヤーの方が目前の美少女よりも大切だ。
「容姿が好みだからと言って、姫君ともあろう者が自由に結婚できるものではありません。第一、彼は交流が思わしくないセイリアのサーデンライト――」
 尚もセリエを諫めようと言葉を続けたラザァだが、途中で彼はハッと口を噤んだ。
 どうやら、セリエにはクラリスの正体を明かしてはいなかったらしい。
「アラ? サーデンライトって――もしかして、セイリア王家の血を引く、あのサーデンライト公爵家のこと!?」
 セリエの蒼い双眸がパッと輝く。
「随分失礼なことを言った気もするけど――年齢からして公爵の弟君のクリーエルディス殿かしら? 噂には聞いていたけれど、本当に美形ね! 家柄も釣り合わないことはないじゃない。この前、縁談が持ち上がったカレリア公国の超不細工な伯爵より、ずーっとイイわっ!」
 セリエは興奮気味に頬を上気させて、クラリスに密着してくる。
 クラリスは冷ややかな眼差しで彼女を見遣った。
「僕……当分、結婚する気なんてないからね」
「別にいいわよ。勝手に着いて行くから。わたし、いい奥様になると思うけど? フフフ、そのうちわたしの魅力に気がつくようになるわよ」
 王族らしい傲慢な物言いをし、セリエが微笑む。
 クラリスは思い切り溜息を吐いてやった。
 自身の言葉度通りセリエは美人だ。今はまだあどけなさが残るが、数年経てば誰もが息を詰めて振り返るような美女に成長するだろう。
 クラリスにもそれくらい解る。
 だが、生憎――クラリスは異性よりも同性の方に惹かれてしまう性質の持ち主なのだ。
 女性のことも嫌いではないが、今は、同性と後腐れのない関係を築いている方が楽だった。色々と遊びたい年頃でもある……。
「シンシリア――遅いな」
 ラザァはしばしお転婆姫を困惑気味に眺めていたが、やがて何かを諦めたらしく話題を切り換えた。
「兄上に逢えた感激に浸っていて、そのまま二人で愛を確かめ合ってるんじゃないのっ! そんな不愉快な話題、僕に振らないでよ!」
 クラリスは半ば自棄気味に言葉を返した。
「それより、ラータはどうして父親の死を悲しんでいなかったんだよ?」
 うっかりシンシリアと兄の色事を想像してしまい、クラリスは慌ててそれを脳裏から追い払った。
 とにかく何か別のことに集中しよう――と、また躱させることを覚悟で、ラータについての疑問を発してみる。
 やはりラザァは応えてはくれなかった。
 その代わりに、
「だって、父様はアルディス聖王の血をホントに僅かしか受け継いでないもの。アルディス聖王家の直系だったのは、母様の方だったのよ」
 セリエが淡々と応えてくれた。
 蒼き双眸には、とてつもなく冷淡な輝きが宿されていた。



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2009.07.25 / Top↑
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