ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 昨日にも増して、神楽宮を覆う空気に邪気が混じっていた。
 目に見えぬ瘴気が、身体に纏わりつく。
 軽く舌打ちして、和泉高倉は足を止めた。
「早くお眠りなさい、鬼神様」
 空を仰ぎ見ながら呟く。
 ジャリッ……と、玉砂利を踏み締める音が聞こえたのは、その時だった。
 誰かが近寄ってくる気配に、高倉は足音の方へと首を巡らせた。
 薄地のロングコートを着た青年が一人、ゆっくりと接近してくる。
「神主さんですか?」
 青年は、高倉の目の前で足を止めた。凄まじく整った顔立ちの青年だった。
「そうですけれど」
 高倉は青年に魅入りそうになりながらも、ぶっきらぼうに応じた。
「御神体を拝見させていただきたいのですが」
 穏やかに告げる青年。
 その一言が、高倉の心に忌々しさを植えつけた。
「申し訳ありませんが、御神体を見せる訳にはいきません。御神体を拝顔できるのは、冷泉家の者のみです」
 丁寧な口調とは裏腹の険しい表情で、青年の申し出を撥ね除ける。
 御神体を得体の知れない人間に見せるなど、とんでもないことだ。
「ここの神主は代々冷泉家の中から選ばれ、選ばれると『和泉』と名を改めるそうですね? 冷泉高倉さん――あなたは、先代御方様の弟に当たる方ですよね」
 青年は麗雅な笑みを美しい顔に刻んだ。
「それが何か?」
 高倉は素っ気なく応じる。
 目前の美青年に対して不信感が増した。
 確かに、自分は先代『御方様』の実弟だ。兄が御方様になった時と並行して、自分は神楽宮神社の神主になったのだ。
 高倉は不躾に青年を観察した。
 土地の者ではない。
 それなのに、高倉の素姓を知っている。
 誰かに訊けば容易に判明することだが、高倉は青年への警戒を強めることにした。
「冷泉高倉さん、あなたは僕を知っているはずです。僕に見覚えはありませんか?」
 青年は笑みを浮かべたまま言を紡ぐ。
 高倉は首を捻った。
 そう言われると、昔、青年を何処かで見たような気がしてくるから不思議だ。これほどの美貌の持ち主を、簡単に忘れるはずはないのだが……。
「僕には御神体を見る資格があるはずです」
 言いながら、青年は左手の中指に嵌められた銀細工の指輪を外すのだ。
 指から離れた瞬間、指輪は青い光を発する。
「――――!!」
 高倉は目を瞠った。
 突如として、指輪が一本の日本刀へと変化したからだ。
 青年が手慣れた仕種で宙に浮かぶ刀の柄を掴む。
「――こっ、これはっ!?」
 高倉は恟然と日本刀と青年を眺めた。
 青い霊光を纏った、冴え冴えとした日本刀。
「まさか雷師(らいし)? 魔封じの剣なのか?」
 上擦った高倉の声に、青年が静かに頷く。
「現在、これを所持しているのは、確か――」
 高倉は怖々と青年の顔を注視した。
 美しい青年の全身を、先ほどまでには感じなかった凄絶な霊力が取り巻いている。
 青白く神々しい霊光が、青年の全身から滲み出ているのだ。
 刀を手にした瞬間、青年に神が降臨したかのようだった。
「あっ……あなたは――あなた様はっ――」
 畏怖の眼差しで高倉は青年を見つめた。
「どうか、御無礼を御許し下さい。すぐにでも御神体を」
 高倉は慌てて跪き、恭しく平伏しながら謝罪する。
 それを、青年の澄んだ双眸が当然のように見下ろしていた。



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2009.07.26 / Top↑
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