ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
     *


 冷泉家の巨大な門が行く手を遮っていた。
 如何にも重々しげな鉄の門を前にして、柾士は足を止める。美人もそれに倣った。
「待ってね、有馬くん。今、インターフォンで――」
 柾士はユキを片手に抱いたまま、石壁に嵌め込まれている白いインターフォンへと指を伸ばした。
「平気ですよ」
 だが、美人が穏やかな口調で柾士を制した。
 彼は、柾士がインターフォンを押すよりも早く腕を伸ばし、門の黒い把手を掴むのだ。
 ギギギギ……。
 柾士の目の前で、開かないはずの門が軋りを立てながら引き開けられてゆく。
 美人はしたり顔で開いた門から中へと身を滑らせるのだ。
「有馬くん、君は一体――」
 ――何者なんだ?
 柾士は美人の後に続きながら茫然と呟いた。驚きのあまりに語尾が濁る。
 それでも、美人には柾士の訊きたいことが解ったらしい。彼は肩越しに振り返り、意味深に微笑んだ。
「すぐに解りますよ」
 短く告げて、視線を冷泉の屋敷へと向ける。
 柾士は大きく深呼吸した後、美人の隣に並んだ。
 ――有馬くん、君は……。
 柾士は、急に早鐘のように鳴り出した胸の鼓動を恨めしく思いながら美人の美貌を見遣った。
 月光を浴びた顔は、常より美しくさえある。
 その艶麗な顔が、柾士の知っている『有馬くん』ではなく、もっと別の――俗世を超越した大いなる存在のように感じられて、何となく淋しくなった。
 美人は柾士の視線に気づいているのか気づかぬ振りをしているか、平然と足を進めている。
 柾士は美人から無理矢理目を逸らした。代わりに、冷泉家の玄関を見つめる。
 二人が玄関に辿り着いた瞬間、バタンッと白い扉が内側から押し開けられた。
 すぐに、不審げな表情の公暁が姿を現す。どこか焦っている様子だ。
「やあ、櫻町さん。相変わらず勘がいいね」
 柾士は、いつもタイミングよく出現する公暁に和らいだ笑みを送った。
「――志木様」
 柾士の上に視線を置いて、公暁は安堵の笑みを浮かべる。
 だが、それはすぐに消失し、彼の顔には先ほどの怪訝な表情が舞い戻った。
「門が開く気配がしましたので。それより、どのようにして門を――――」
 言いかけた言葉を公暁は飲み込んだようだった。
 視線が、柾士の横に立つ美人に釘付けになっている。
 驚愕も露わに、公暁は立ち竦んでいる。
 公暁の顔にこれほどはっきりと感情が露呈されるのを、柾士は初めて目撃した。
「美人様……!?」
 公暁の唇から『信じられない』というような声が洩れる。
 公暁が美人の名を知っている事実に柾士は驚き、美人に視線を馳せた。
「久しぶりだね、公暁」
 美人の顔には決まりの悪げな微笑みが浮かんでいる。
 美人の一言に、公暁の顔から緊張と驚愕が消失した。彼の顔にも、懐かしむような、崇拝するような笑みが刻まれる。
「お久しぶりです、美人様」
 しなやかな動作で身を屈め、公暁はその場に跪いた。
 柾士は公暁のその恭しい態度に唖然とし、再び美人に視線を投じた。
 美人がチラリと柾士を一瞥し、苦笑する。
「そんなに畏まらなくてもいいよ。僕が嵯峨に怒られる。ホラ、君の御主人様のお出ましだよ」
 美人が開けっ放しの扉の奥を指差す。
「公暁、何を騒いでるの?」
 玄関ホールにほっそりとした影が現れた。冷泉嵯峨の麗しい姿が公暁を求めてやってくる。
「志木さんが来た――」
 嵯峨の声は唐突にプッツリと途切れた。
 公暁がそうであったのと同様に、彼もまた美人を凝視していた。
 だが、立ち直りは公暁よりも早かった。すぐに嵯峨は靴を履き、玄関の外へ出てくると美人に向けて苦い笑みを放ったのだ。
「やっぱり来ていたんですね、美人さん」
 咎めるような口調で述べ、嵯峨は優雅に肩を竦めた。
「――怒ってるね?」
 美人が嵯峨に困ったような微笑を向ける。
「怒ってます。当然ですよ。来てるのなら、一言くらい連絡を下さい。ここ数日、あなたの気配を感じてはいましたが、いつも捉えた瞬間に遮断されてしまうので困っていたところです」
 憮然とした様子で嵯峨が言い返す。
「できるだけ、神力を使わないようにしていたからね」
 美人は悪意なくサラリと言葉を口にする。
 嵯峨の美しい柳眉が僅かにひそめられた。
「まさか志木さんとご一緒だとは――夢にも思っていませんでしたよ」
 嵯峨の視線が柾士に移される。
「あっ、えっ? えーっと……」
 急に嵯峨に見つめられて、柾士は狼狽えてしまった。
 まだ、この場の状況がよく把握できない。
 美人、嵯峨、公暁の三人が、旧知の仲であることは、これまでの会話から何となく察することができた。それに美人の正体についても、朧だが掴めたような気がする……。
「その、よく事態が飲み込めないんだけど――有馬くん、二人と知り合いなの?」
 柾士は助けを求めるように美人を見た。
 美人が無言で頷く。
「――有馬くん?」
 訝しげに言葉を発したのは嵯峨だった。
 柾士は『何か余計なことを言ったかな?』と内心焦ったが、嵯峨の視線は柾士ではなく美人に向けられていた。
「どうして『榊』と名乗らなかったのですか?」
「えっ? 『榊』って確か神族の――」
 美人が答えるよりも早く、柾士は疑問を口に出していた。忙しなく三人に視線を配る。
「そうです。『榊』は神族の直流です」
 既に立ち上がっていた公暁が、柾士の問いに応えてくれた。
「そして、この方は――榊美人様。現在、この世に唯御一人の天主様であらせられます」
 公暁は毅然と断言した。



 にほんブログ村 小説ブログへ 
← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト
2009.07.27 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。