ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 蕪木亮介の姿は一階のリビングにあった。
 独身のせいか実年齢よりも若々しく見える叔父は、テレビの前に座り、深夜のニュース番組を眺めていた。
 莉緒が勢いよくリビングに飛び込むと、亮介は驚いたようにテレビから目を離した。
 莉緒を見上げ、数度瞬きを繰り返す。
「おい、何をそんなに怒ってるんだ?」
 亮介が不思議そうに小首を傾げる。
 莉緒の形相には鬼気迫るものがあったのだろう。
「怒ってなんかいないわ。教えてほしいことがあるの」
 莉緒は素早く亮介の誤解を訂正し、須玖里家の系図を彼の眼前に差し出した。
 村人たちは全員、村に纏わる秘密を知悉しているのだ。
 知っていながら誰もが莉緒に対しては言葉を濁す。瑞穂や要でさえ、一番肝心な部分を明かそうとはしてくれない。
 そうなると、頼れるのはもう亮介しかいなかった。
 唯一の肉親である亮介までもが自分を欺いたりするとは思いたくない。
「それは……どこで手に入れたんだ?」
 亮介は瞬きもせずに家系図を見つめ、掠れた声で尋ねてきた。
「神栖くんがくれたのよ」
「玲くんに逢ったのか」
 ようやく瞬きをし、亮介は諦観したように深い溜息をついた。
「わたし、今日一日で随分と多くの疑問に出会したわ。瑞穂も要くんもお婆さんたちも、いつもと何か違うの。みんな、わたしだけに隠し事をしてるみたいで嫌なのよ。金井さんの葬儀に参列している人に言われたわ。余所者が居座っているせいで月が狂った、そのせいで金井さんは亡くなったんだって。――わたしのせいなの? わたしが外の世界から来たから、金井さんは死んだの?」
 莉緒は畳みかけるように言葉を連ねた。
 喋っているうちに一日の出来事が甦ってきて、自然と口調が厳しくなってしまう。
「金井のことは、莉緒には関係ない。大体、おまえは房雄に逢ったこともないだろう。葬儀に参列した人たちは、大切な者を奪われて哀しみに打ちひしがれていただけだ。物凄く理不尽だけど、愛する者の死を誰かのせいにしてしまいたかったんだよ、きっと」
 激白した莉緒を痛々しげに見つめ、亮介が穏やかに言葉を紡ぐ。
 叔父の声音には、莉緒に対する非難は微塵も含まれていなかった。それどころ愛情に満ちている。亮介は、村の異変に莉緒は無関係だと明言してくれたのだ。
「ごめんなさい。解らないことだらけで、頭が混乱してるの」
 莉緒は素直に謝罪した。
 亮介に八つ当たりしても仕方がない。村人たちの秘密主義に対する苛立ちやもどかしさを彼にぶつけたところで、何の解決にもなりはしないのだ。
 莉緒は心を落ち着けるために亮介の傍に座り、深呼吸した。
 正面から叔父を見据え、改めて須玖里家の系図を差し出す。
「教えて。どうして、須玖里家にはこんなに要という人物が存在しているの?」
 単刀直入に訊くと、亮介は気まずそうに莉緒から視線を逸らした。
 忙しない視線が系図の描かれた紙面を走る。
 これほど動揺を露わにする亮介を莉緒は初めて見た。
「莉緒は要くんと同級生だったね……。要くんには兄弟がいないから、彼が全てを背負わざるを得ない。可哀相だけど、それが須玖里に生まれた者の宿命だ」
 悄然とした呟きが亮介の口から洩れる。
 莉緒はその言葉の不可解さに眉をひそめた。
「宿命って、どういうこと?」
「遙かな昔、アサが殺人鬼と化した瞬間から須玖里家にはある責務が課せられたんだ」
「アサの祟りを鎮めるために、彼と懇意にしていた須玖里家が神主として彼の魂を供養し続けてきたことでしょう。それが、そんなに重大で深刻な問題だとは思えないけれど? 祟りがあるなんて信じられないもん。叔父さんは本気でアサの祟りを信じてるの?」
「……信じてない。村人たちは祟りと呼ぶけれど、実際に祟りがあるわけじゃないんだ。祟りじゃないことは誰もが知っている」
 亮介がゆるりと顔を上げる。
 苦悩に満ちた眼差しが、ひたと莉緒を見つめた。
「祟りよりも恐ろしいことが、この村では当たり前のように起こっているんだ。幕末から現代まで、何度も何度も繰り返し……。突発的に、だが確実にその悲劇は訪れる」
 亮介の言葉はあまりにも抽象的すぎて、莉緒には何を示唆しているのか理解できなかった。怪訝な面持ちで亮介を見返す。
「須玖里家の本来の役目は神主なんかじゃない。真の役割は、アサを監視し、彼を封じ込めておくことなんだよ」
「えっ、何それ? アサは百五十年も前に死んでるじゃない!」
 莉緒は呆気に取られながらも質問を繰り出した。
 殺人鬼アサは疾うに死亡している。
 なのに亮介は、まるでアサが生きているかのように喋っているのだ。
「須玖里家の《要》というのは名前じゃない。印につけられた呼称にすぎないんだよ」
 莉緒の疑問を無視するようにして、亮介は更に言葉を紡ぐ。
「名前じゃなければ、何だっていうのよ?」
 気難しい顔をした亮介に、莉緒はまた疑問を投げつけた。
 亮介は莉緒を見返したまま、何かに耐えるように口を噤んでいる。

 気まずい沈黙がリビングに訪れかけた時、遠くで電話のベルが鳴り響いた。



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2009.07.27 / Top↑
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