ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「――あっ……ああっ……」
 柾士は、目前の光景に愕然と見入っていた。
 薄闇の中でも、公暁の肩から夥しい血液が噴射されているのがはっきりと見えた。
 だが、公暁は動じた様子もなく平然と立っている。
 左の掌から放出された細い銀糸が、黒き影――閻羅に巻きつき、動きを封じていた。
 銀の輝き――公暁の神力が惜しみなく発揮されている証拠だ。
「嵯峨様を傷つけようとするのなら、私はおまえでも容赦はしませんよ」
 静かすぎるほど静かな口調で告げて、公暁は左手を振った。
 天の川のような煌めきを放つ銀糸が宙を飛び、由羅の足許に閻羅を叩きつけ、解放する。
 閻羅が身を起こし主人を庇うよりも速く、公暁の血まみれの右手が振られた。そこから飛び出した銀糸が、生き物のように由羅の首に絡みつく。
「ぐっ……! ……兄……さんっ……!」
 由羅の両手が安芸から離れ、藻掻くように銀糸を掴み取る。
 直後、安芸の身体がスローモーションのように地面に崩れ落ちた。
「安芸くんっ!?」
 柾士は反射的に安芸の元へ駆け寄っていた。
「いけません、志木さん!」
 美人の咎めるような声が背後から聞こえてきたが構わなかった。
 心と身体が急いている――安芸の傍に行かなければ、と。
 ガルルルッ!
 近くにいた閻羅が赤い双眼で憎々しげに柾士を睨み、牙を剥く。
 閻羅が柾士に飛び掛かろうとした刹那、
 フギャーッッ!
 スルリとユキが柾士の腕を擦り抜けた。
 毛を逆立たせて閻羅の前に立ち塞がる。
 何故か、閻羅は気圧されたように一歩退き、二匹の獣は睨み合ったまま動かなくなった。
「安芸くん!」
 柾士は、石畳に両手を突っ撥ねて激しく咳き込んでいる安芸の背中を優しく摩った。
「……まさ……し」
 安芸の潤んだ双眸が柾士を認めて嬉しそうに細められる。
 楚々とした白い首に浮かんだ赤い痣が、とてつもなく痛々しかった。
「安芸くん……もう――もう大丈夫だよ」
 柾士は安芸の華奢な身体を両手に抱き締めた――由羅や閻羅から彼を護るように。
「……にいっ……さんっ……!」
 不意に、至近距離で由羅の苦悶の呻きが聞こえた。
 柾士は、対峙したまま微動だにしない二匹の獣にチラリと視線を走らせてから、由羅を見遣った。無数の銀糸が、由羅の全身を縛している。
「おまえは私のたった一人の弟……。だから、私が殺してあげます」
 公暁の抑揚のない声が耳に届く。
 柾士は慌ててそちらへ首を巡らせた。
 公暁の左手が再度振られようとしていた。
「兄さん……やめっ――」
 由羅の弱々しい悲鳴。
 その声を掻き消すように、
「おやおや、一年振りの再会なのにな。もっと、由羅に優しくしてやってもいいんじゃないのか、オニイサマ」
 嘲笑混じりの男の声が割り込んできた。
 ズサッッ!
 間髪入れずに、天空から紫の稲妻が迸る。
 鋭利な刃物のような雷光が、公暁の銀糸をスッパリと切断した。
 由羅が銀糸から解き放たれて、ガックリと地に膝を着く。
「どうやら、シナリオの変更が必要みたいだな、由羅」
 他人を嘲弄するのを愉しんでいるような声が、天から降ってきた――


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2009.07.28 / Top↑
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