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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Tue
2009.07.28[20:43]
 安芸が目醒めた。
 神か天使が降臨したように、全身が黄金色に輝いている。
 髪も双眸も――全てが黄金色の光で彩られているのだ。
 背中から生える巨大な光の翼は、殊更美しかった。
 柾士だけではなく、美人や嵯峨、由羅、公暁、九鬼――そして華瑤鬼までもが、少年の覚醒を慄然とした面持ちで見守っていた。
 神力の解放を示すように、光の翼がゆるりと何度か羽ばたく。
 豪奢な黄金の神人。
 柾士は陶然とその姿に魅入っていた。
 ――これが……本当の安芸くん?
 ドクン……ドクンッ……!
 より一層鼓動が速く、強くなった。
 皆の視線が集中する中、安芸は優雅な動作で己の額に掌を当てた。
 ズズズッ……。
 安芸が手を引くと、額の中から黄金色の物体が出現した。
 三つ又の変形小刀が二本、安芸の額から生み出されたのだ。
「久しぶりだね、流星華」
 安芸が恭しく刀に口づける。
 柾士は刀の出現よりも安芸がまともに喋っていることに驚き、瞠目した。
 子供じみたところなど微塵も感じられない、沈着冷静な声音。表情からも、あどけなさがすっかり消失していた。
 柾士の知らない人格―――本来の安芸が、確かに此処に存在していた。
「安芸……完全に目醒めたんだね?」
 由羅が意を決したように安芸に歩み寄る。閻羅も主人に従っていた。
「……由羅」
 安芸の黄金色の双眸がしっかりと由羅を見つめる。
「美弥を殺したんだね」
 安芸の瞳が哀しみと憎しみを孕み、しかし、その双方を打ち消すようにスッと細められる。
「そうか。愛する美弥の死と、美弥の身体が華瑤鬼の《器》になったことが引き金か」
 由羅が皮肉げに唇を歪める。
 黒い瞳が闇よりも濃くなった。絶望に打ちひしがれたような空虚な眼差しだ……。
「閻羅――最期の闘いだよ」
 低く呟き、由羅はキッと安芸を見据えた。瞬時、双眸に何かを渇望するような強い光が宿る。
「そうだね。終わりにしよう」
 安芸が流星華を両手に持ち直す。
「でも、その前に――柾士」
 安芸の身体が反転し、右手に持つ流星華がピタリと柾士を示した。
 唐突に名を呼ばれて、柾士はドキッとした。
 安芸の黄金色の眼差しが、ひたと柾士に注がれている。
「僕は、柾士を選ぶ」
 揺るぎない決意を秘めた言葉が、安芸の唇から出でた。
「――えっ?」
 柾士はその言葉が何を示しているのか理解できずに、口を閉じるのも忘れて茫然と安芸を見返した。
「柾士を選ぶよ」
 言葉を繰り返しながら、安芸が流麗な足取りで歩み寄ってくる。
 柾士の眼前まで来て安芸は申し訳なさそうに瞳を細めたが、それはすぐに押し殺された。
 透明感のある怜悧な双眸が、真っ直ぐに柾士の視線を受け止める。
「僕は、僕の《護り手》に――柾士を選ぶ」
「安芸……く……ん……?」
 柾士は安芸を仰ぎ見た。
 今宵は安芸の誕生日。彼は《護り手》に柾士を選んだのだ。今、この瞬間に。
「僕を護って、柾士」
 安芸の右手がゆらりと揺れ、流星華の切っ先が柾士の額に当てられた。
 黄金の光が視界を照らす。
 ズズッ……。
 奇妙な感覚が額に芽生えた。何かが埋め込まれてゆく異物感。
「あっ……安芸……くん?」
 冷たい汗が額から滴り落ちる。
 流星華が自分の額に沈んでゆくのが見えた。不思議と血も出ないし、痛みもない。ただ、この儀式が何を意味しているのかは、皆目理解できなかった。
「柾士の裡に眠る、櫻町の力を呼び起こすよ」
 安芸の指が流星華の柄の尖端を額に押し込む。額に安芸の冷たい指が触れた――
 刹那、
「――――!?」
 ドクンッ! と心臓が激しく脈打った。
「うっ……ぐっ……!」
 胸が痛い。
 頭が痛い。
 息ができない。
 苦しい――
 精神の未開部分から得体の知れない《何か》が鎌首を擡げ、起き上がってくるのを感じた。
 虚ろになる視界の中で、金色の光だけが眩く煌めいている。
「……あっ……つうっ!」
 柾士は片手で胸を押さえ、蹲った。
 苦しさに目をきつく閉じたが、そこにも黄金の光点が視えた。
 それは、自分の裡から突如として生じたもののようだった。
 小さかった光は徐々に肥大し、遂には柾士の全てを呑み込む。
 ドクンッッッッ!
 心臓が大きく弾け――停止した。



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Category * 堕天の翼
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