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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Tue
2009.07.28[20:47]
「うわぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!」
 口から絶叫が迸る。
 一刹那、呼吸と心臓が停止した。
 再びそれらが活動を開始した時、凄まじい熱が体内に生じた。
 瞬く間に熱は全身に広がり、柾士を苛む。
 胸が痛み、呼吸困難が再発する。
 柾士は襲い来る苦痛にどう対処すべきか解らずに両手で胸を掻き毟り、額を地面に擦りつけて呻いた。
「志木様っ!」
 見兼ねたのか公暁が柾士に駆け寄り、肩をそっと抱き起こしてくれた。
「大丈夫です。落ち着いて、ゆっくりと呼吸して下さい」
 柾士は頷き、彼の指示通りのことを実行した。
 二、三度深呼吸すると、肉体の痛みが薄れ、呼吸も楽になった。
 反比例するように、精神の異常なまでの昂揚と、迫り来るような緊張の高まりを感じた。
「長い間、眠っていた力を強引に呼び醒ましたので、心と身体に負担がかかってしまったのです。でも、もう平気ですよ。力の波動が安定してきています」
 公暁が柾士の手を目の高さまで持ち上げる。
「これ……は?」
 柾士は唖然とした表情で公暁を見返した。
 自分の両手――いや、身体全体が金色に輝いているのだ。
 安芸の輝きよりも少しばかり仄白い、白金の光。自分を神格化するつもりは毛頭ないが、その輝きは『神々しい』としか思えなかった。
「流星華に触発されて、神力が目醒めた証拠です。志木様には、私と同じ『櫻町』の血が流れているではありませんか。ほら、その証拠にあなたの大切な神獣が――」
 公暁が労るような微笑みを浮かべ、スッと指を上げる。
「しん……じゅう?」
 柾士は公暁の示す指の先に視線を向け、ギョッと目を剥いた。すぐ傍にも白金の塊が存在していたのだ。
「――ユ、ユキ?」
 小さな白猫が白金の光を放っている。自分と同じ光を。
 柾士の視界の中で、ユキの身体が急成長してゆく。四肢がスラリと伸び、白く長い体毛が微風に煽られたようにユラリと揺れた。
 見た目は猫に見えるが、厳密にはそうではない。双眸はサファイアのように澄んだ青色に輝き、額の中央には一本の金の角が生えている。更に、長い尾は二股に分かれていた。
「お、おばーちゃんの……嘘吐き……。ね、猫股じゃないか、おまえっ!?」
 何の前触れもなしに巨大化したユキに、柾士は罵声を浴びせた。
 他に何とコメントとしてよいのか、見当もつかなかったのだ。
「猫股などではありませんよ。私たちには、己の体内から特殊な《武器》を生み出すことが可能なのです。神力の分化――己の分身です。安芸様の流星華。由羅の閻羅。私の銀糸。美弥様の紅。志木様はユキ。今までは普通の猫のようでしたが、あなたの力が解き放たれたので同時に本来の姿へ戻ったのですよ」
 公暁の丁寧な説明が、半ば放心状態の柾士の耳を通り過ぎてゆく。
「い、いきなり、そんなこと言われても……。安芸くんの《護り手》だなんて――」
 柾士は相次ぐ驚異に思わず口籠った。
 救いを求める眼差しを安芸へと注ぐ。
 安芸の黄金の瞳は、冷静に柾士を見返していた。
「僕を護って、柾士――」
 静かな口調で告げ、安芸はクルリと踵を返してしまうのだ。
 いつの間に安芸の元へ戻っていたのか、両手には流星華がそれぞれ握られている。
 安芸は、二刀の流星華を眼前で交差させた。
「準備はいいよ、由羅」
 安芸の双眸には、最早由羅一人しか映し出されていないようだった。
「望むところだね。一年前の決着をつけよう」
 由羅もまた安芸だけしか見ていない。
「ボクは、ボクを選ばなかった安芸を――赦さないっ!」
 ボウッと、由羅の足許から白銀の光が立ち上った。
「僕も、美弥を殺した由羅を赦さないよ」
 安芸の翼が大きく羽ばたく。
 転瞬、安芸の足が地を蹴った。
 流星華が黄金の光の粒子を撒き散らしながら、由羅の喉元へ鋭く切り出される。
 ガルルルッ!
 間一髪、魔風の如き勢いで飛んできた閻羅が、流星華の刃を尖った爪で払い除けた。
 流星華の軌跡が由羅から逸れ、空を裂く。
「僕は――」
「ボクは――」
 安芸と由羅が、それぞれ態勢を立て直す。
「絶対に赦さないっ!」
 ピタリと双方の叫びが重なり合う。
 安芸と由羅は、間に閻羅を挟んだ形で視線を合致させたまま動かなくなった。
「――あっ! あっ、どうしようっ!?」
 少年たちの対峙を眺めながら、柾士は埒もないことを口走った。
 二人の間には、他者が割って入れないような緊迫感が漂っている。
 フーッ!
 白い獣――神獣化したユキがもどかしげに柾士を振り返った。その目は『早く命令しろ』とでも言うように鋭利に輝いている。
「えっ? あっ――」
 柾士は、突然開花した力の使い道が解らずに狼狽していた。
 焦燥のために冷たい汗が全身から噴き出す。
 安芸と由羅を止める術を柾士は知らない……。
『ホーッホッホッホッ!』
 その醜態を嘲笑うように、華瑤鬼の声が高らかに響いた。
『力の使い方も解らぬ阿呆な神族など、今この場で妾が抹殺してくれるわっ!』
 華瑤鬼の唇から憎しみに満ちた言葉が吐き出される。
 彼女へ視線を投じた柾士の目前に、赤く燃える炎の塊が迫っていた――



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Category * 堕天の翼
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