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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Tue
2009.07.28[20:51]
 ――ぶつかる!?
 目を大きく見開いた刹那、炎よりも速く青い冷光が炸裂した。
 眩い閃光に阻まれ、炎が一気に四方に弾け飛ぶ。
 青白い光が、柾士と華瑤鬼の間で輝いていた。
「彼を傷つけることは、僕が赦しません」
 冷ややかな声が響く。
「……あ、有馬くん」
 柾士は大きく息を呑み込んだ。
 美人が華瑤鬼の攻撃から護ってくれたのだ。彼は、左手を華瑤鬼に向けて押し出していた。中指に嵌められた銀の指輪が、一際眩く発光している。
『おのれっ! 邪魔立てする気かっ!』
 華瑤鬼の口から驚愕と怒りの混ざった言葉が吐き出された。
「志木さんを害するのならば――」
 美人は落ち着き払った仕種で指輪を抜き取った。
 瞬時、パンッと指輪が青い光と共に弾け、姿を変える――美しい日本刀へと。
 青い光を放つ刀身が、宙で静止する。
『ま、まさか……それは雷師? おぬし、魔封じの剣を持っておるのかっ!?』
 華瑤鬼が怯んだように数歩後退った。
「魔王の妃の中で、最も冷酷で残忍だと云われるあなたでも怖いですか――この剣が?」
 華瑤鬼の狼狽を無表情で眺めながら、美人は左手を伸ばした。
 長い指がゆっくりと剣の柄を握りしめる。
「待って下さい、美人さん。それは僕の獲物ですよ」
 美人が剣を青眼に構えた時、嵯峨が口を挟んだ。
 華瑤鬼と美人の視線が、悠然と歩み寄る嵯峨に向けられる。
『お、おまえはっ……? その波動……知ってる。妾は知っておるぞっ!』
 華瑤鬼の双眼が吊り上がり、全身に怒気が漲った。
『妾は忘れもしない。その冷泉の波動!』
 燃えるような赤い瞳が嵯峨を射竦める。
 だが、嵯峨に動じた様子は全くなかった。
 艶麗な唇の端に皮肉げな微笑を刻み、嵯峨は華瑤鬼を見つめている。
「僕は、七十七代目冷泉家当主――冷泉嵯峨。あなたを封印した『御方様』の子孫ですよ」
『貴様、冷泉のっ! 妾がこの世に甦ったからには、冷泉の血を引く者は唯の一人も生かしてはおくまいぞ! 妾の恨み怒り、その身でとくと味わうがいい! まずは、貴様から血祭りにあげてやるわっ!』
 華瑤鬼の顔が憎悪に歪む。彼女の手の一振りで紅蓮の炎が躍った。
 炎が蛇のようにうねり、嵯峨を包み込む。
 燃え盛る炎に嵯峨の身が焼き尽くされるかと見えた一瞬、火中に金色の光が芽生え、炎を掻き消した。
 炎が消滅した後には、優雅に両腕を組んで微笑んでいる嵯峨の姿があった。
「構いませんよ。あなたに、この僕を殺せるのなら、ね。安芸は純血種の神族ですが、残念なことに僕は――半分はあなたの同類だ。だから、血を見ることが大好きなんですよ。――さて、血祭りにあげられるのは、あなたと僕のどっちかな? 僕は、多分あなたの方だと思いますよ、華瑤鬼妃様」
 嵯峨の美顔に凄絶な薄笑みが浮かぶ。
『おのれっ! その言葉、あの世で悔いるがいい!』
 嵯峨の好戦的な態度と侮蔑の言葉が、華瑤鬼の闘争心を刺激した。
 美弥の姿をした鬼女が地を蹴り、嵯峨に向かって疾駆する。
 炎の剣が、華瑤鬼の手に握られた。鋭い突きが嵯峨の心臓目掛けて繰り出される。
 嵯峨はヒラリとその攻撃を身軽に躱わした。そのまま後ろ向きに跳躍を重ね、社殿の屋根に飛び移る。
『殺してやるぞ、冷泉っ!』
 嵯峨の後を悪鬼の形相の華瑤鬼が追う。
「――公暁!」
 嵯峨の凛然とした声が彼の《護り手》を呼んだ。
 柾士を支えていた公暁の手がそっと離れる。
「失礼します、志木様。あなたは、自分の成すべきことを成して下さい」
 それだけ言い残して、公暁は柾士の傍を飛び去った。
 薄闇の中に公暁のしなやかな身体が舞い、社殿に飛び乗る。
 公暁が影のように嵯峨に寄り添うのを、柾士は茫然と見つめていた。
 成すべきこと――それが、解っているようで解らなかった……。



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Category * 堕天の翼
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