ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 カチャリ。
 小さな刃音が、柾士の注意を引いた。
 ふと、目を美人へ向けると、彼は雷師の柄を握り直したところだった。
「必然的に、僕の相手はあなたになったようですね」
 冴え冴えとした切っ先が正面へ向けられる。
 その先に赤い瞳の男がいた――九鬼だ。
「どうやら、そうみだいな」
 ニヤッと唇を歪めて、九鬼が笑う。
「あんた、見逃してくれなさそうだしな」
「逃げる気などないのでしょう? あなたは、由羅を見殺しにはできないはずです」
「ご明察。オレは由羅が欲しいんだ。絶対に手に入れる。そのためにあんたを殺し、冷泉のガキも殺してやるよっ!」
 挑むような眼差しが美人に注がれた。九鬼の両眼がギラリと赤光を放つ。
 瞬間、彼の胸から剣が生えた。
 刃先が湾曲したように波打っている《フリッサ》と呼ばれる、独特の剣だ。如何にも切れ味のよさそうな剣を、九鬼は喜々として手に取り上げる。
「華瑤鬼妃様が何故あんたの刀を恐れたのか知らないけど、オレはそんなものは怖くないぜ。あんたの――天主の首はオレが討ち取って、魔王様の前に差し出してやるよ」
「迷惑な話ですね。それに安芸と由羅――二人の邪魔は誰にもさせませんよ」
 美人は淡々と述べ、剣の柄を両手で握った。
 直後、弾けるように美人の身体が疾走を開始する。
 コートの裾が風に靡き、大きく翻った。
 白刃の煌めきが、闇を裂く。
 刃と刃がぶつかり合い、火花を散らす。
 振り下ろした美人の剣を、九鬼の剣がしっかりと受け止めていた。
 青く輝く剣と赤く輝く剣が交差する。
 力はほぼ同格なのか、二人は剣を交えたまま動かなくなった。
「有馬くん……」
 柾士は美人を見、それから自分の手を見遣った。
「オレは――」
 淡く白金に輝く両手――神力の顕れ。
 突如として芽生えたこの力を、どう使えと?
 ――オレに何ができる……?
 柾士は胸中で自問した。
「オレは……」
 どうして、この地へやってきた?
 何に導かれ、何に惹かれ――
 そこまで考えて、柾士はハッとした。
 目が無意識に安芸の姿を求めていた。
 安芸は由羅と閻羅を相手に、果敢に戦いを挑んでいる。甦ったばかりの神力は、万全ではないだろうに……。
 皆、戦っている。
 安芸も、美人も、嵯峨も、公暁も。
 己の信じる『生きる道』故に。
 大切なもの。
 失いたくないもの。
 手に入れたいもの――
 傷――過去と決別し、克服するため。
 自分を護るために。
 自分の『現在』を否定させないために――
「オレは……戦えない」
 戦い方を知らない。
 自分を――大切なモノを護る術を知らない。
「安芸くん……オレは――」
 柾士は戦う安芸を愕然と見つめていた。それ以外に何もできない。
 心が深い闇に堕ちてゆきそうになった時、

 ――逃げるの?

 眼前に白いワンピースの女性が出現した。
「……由香里」
 柾士は縋るように幻の《彼女》を見上げた。
 彼女の哀れむような眼差しが柾士に注がれている。
 ――また逃げるの、柾士?
 白い両手が柾士の頬を挟む。
 ――あなたは逃げてはいけないのよ。
「でも……オレには、戦い方なんて――神力の使い方なんてっ……!」
 柾士は激しくかぶりを振った。
 ――あなたには、あなたを必要としてくれる大切な人たちがいるわ、この世界に。
 限り無く優しく微笑む彼女。
 ――だから、お願い……幻の私を逃げ場にしないで。
 切願するように告げ、彼女は柾士の額に口づける。
 ――あなたの傷は、私。
 頬に、唇に、彼女が触れる。
 ――だったら、私を超えてみなさいよ。私を消してみなさいよ。私は、いつまでも……永遠にあなたの幻でいたいわけじゃないのよ!
 グイッ、と彼女の手が柾士の首を捻じ曲げた。
 否が応にも、戦う安芸の姿が視界に飛び込んでくる。
 丁度、由羅の足が安芸の右手を蹴り上げ、流星華を弾き飛ばす瞬間だった。
「あっ、安芸くんっ!」
 ガルルルッ!
 閻羅が隙の生じた安芸の右腕を目掛けて跳躍する。
「安芸くんっ!」
 反射的に身体が動いていた。
 幻の《彼女》を突き放し、柾士は駆けていた。
 本能が告げる。
 安芸を護れ、と――
《彼女》の幻影が消滅したことにも気づかずに、柾士は一心不乱に走った。
 ――安芸を護らなければ!
 神力の使い方が解らないのならば、生身で護ればいい。
「安芸くんっ!」
 柾士は、閻羅が襲いかかる寸前、横っ飛びに安芸の身体を両手に抱いた。
「柾士!?」
 安芸の驚く声。
 刹那、猛烈な痛みが右足に生じた。
「うわぁぁっっっっ!」
 地面に転げながら自分の右足を見遣る。閻羅が獰猛な牙を剥き出しにして、齧りついている。
 柾士は激しく足をばたつかせ、閻羅を振り払った。足の肉が抉れ、血が溢れ出す。
「柾士、大丈夫?」
 安芸が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「平気だよ。オレは、君を護るためにいるんだから」
 足の痛みも忘れて、柾士は笑っていた。
 ――何故、自分はここにいるのか?
 今の自分には、安芸を護ること以外に存在意義はない。
 グオォォッッ!
 閻羅が咆哮と共に飛びかかってくる。
「――ユキ!」
 柾士は白い獣に鋭い声を投げた。
「安芸くんを護って!」
 すんなりと言葉が口から滑り出た。
 ユキが『待ってました』とばかりに、勢いよく地を蹴る。
 フギャーッッ!
 初めて主人から命令を下されたことを喜ぶように、四肢を躍動させてユキが閻羅に飛びかかる。
 閻羅の首にユキの牙が突き刺さった。
 ガルルッ!
 すかさず、閻羅の尾がユキの身体を打った。
 弾けるように二匹の獣は離れ、距離を保ったまま睨み合う。
「閻羅、そいつを始末しろ!」
 由羅の命令が飛ぶ。
 閻羅は忠実に命に従い、ユキに躍りかかる。
 二匹の獣は再び衝突し、もつれ絡まり合う。
 目に見えぬほどの速さで攻防を繰り返しながら、獣たちは宙に天高く舞い上がっていった。
 白と黒の光が、激しく夜空を駆け回っている。
「邪魔しないでくれる、おにーさん」
 由羅が柾士に冷たい一瞥を与え、次に安芸に厳しい視線を向ける。
「神獣は神獣同士。ボクらも一対一だ――」
「解ってるよ。柾士、すぐ終わるから」
 安芸が柾士の腕を擦り抜けて立ち上がる。
 地面に転がる流星華が、磁石に引き付けられるようにして安芸の手に戻った。
「閻羅のいない由羅に、勝ち目はないよ」
「ボクの武器が閻羅しかないと思ったら大間違いだ」
 冷笑を湛え、由羅は右手を差し出した。
 掌が銀色に輝き、九鬼の時と同様にそこから剣が生み出される。細身の剣――レイピアだ。
 由羅はレイピアを手に取り、尖端を安芸へと突き出した。
「手加減はしないよ」
 安芸が両手の流星華を重ね合わせる。
 黄金色の光が流星華を覆うにように円を描く。二本の流星華が一つに――二メートル近くある大剣となった。
 黄金に輝く、美しき三つ叉の剣。
 膨大な神力が安芸と由羅の双方から放出されているのを、柾士は肌で感じ取っていた。
 柾士は足の激痛を堪えながら二人を見つめた。
 見届けなければならない。
 二人の結末を――


     *


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2009.07.28 / Top↑
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