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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Tue
2009.07.28[21:00]
     *


「どうして――どうして、ボクを選んでくれなかったんだっ!」
 由羅の絶叫が空気を揺るがした。
 剣と剣がぶつかり合い――弾ける。
 金と銀の光が、闇に映えて美しい。
「ボクは……誰よりも、何よりも、おまえを信じてたんだぞっ!」
 由羅のレイピアが、突きの形で安芸の胸に飛ぶ。
「知ってるよ」
 流星華がレイピアの刃を押し上げ、撥ね除ける。由羅の頬に一筋の傷を刻んだ。
「僕は、選ばなかったんじゃない。選べなかったんだ!」
「何を今更っ!」
 由羅の顔が怒りのために歪んだ。
 頬から流れる血を拭いもせずに、由羅はレイピアを構え直す。
「僕は《護り手》に由羅を選ぶか美弥を選ぶか、迷っていた」
 安芸は流星華の柄を両手で硬く握り締め、頭上高く振り上げた。
「でも……僕には、どちらも選ぶことができなかった。由羅を選び、美弥から由羅を取り上げることも! 美弥を選び、美弥に由羅を諦めさせて僕だけのものにすることも――! だから、僕は由羅と美弥以外の者を選ぶしかなかったんだよ!」
 安芸は流星華を振り下ろした。
 由羅が俊敏に刃を躱わし、安芸の背後へ回り込む。
「そんな綺麗事なんか聞きたくないねっ!」
 擦れ違い様に由羅はレイピアを水平に薙ぎった。
「そう、綺麗事だよ」
 安芸が咄嗟に横に出した流星華の三つ叉部分にレイピアを嵌め、鋭く払らう。
「本当の僕は欲深い、罪な人間なんだよ。僕は美弥を愛していた。そして、由羅に愛されることも望んでいた。……同時に僕は、ひどく二人を憎んでたんだよ。知ってた? 僕を愛さない美弥、美弥から愛される由羅――両方をね! 僕は……僕は二人とも本当に大好きだった――だから、同じ分だけ憎かった!」
「美弥、美弥、美弥って、そんなに美弥が大切なのかっ!!」
 目尻を吊り上げて、由羅が安芸を睨めつける。
 安芸のゾッとするほど冷厳な眼差しが、それを受け止めた。
「大切だよ」
「だったら何故、美弥を選ばなかったんだっ!?」
 レイピアの切っ先が、安芸の咽喉元に押し付けられる。
 安芸はそれを躱わそうとはしなかった。ただ、静かに由羅を見つめている……。
「それは、さっき答えたよ。僕には選べなかった」
「それでも……」
 由羅の喉が呑み込む息に大きく波打つ。
 次の瞬間、体内に蓄積された怒りを吐露するように、彼の口から絶叫が迸った。
「それでも、おまえは選ぶべきだったんだっ!」
 レイピアが安芸の喉を水平に嬲る。
 間一髪、顔を僅かにのけ反らし、安芸が鋭い刃の餌食になるのを回避する。流星華がレイピアを邪険に振り払った。
「そうすれば、こんなことにはならなかった。一年前、おまえは選択を誤ったんだよ、安芸! そして今、再び間違ったんだ! 急に出てきた訳の解らないあんな男を選ぶなんて――そんなのは絶対に赦さないっ!」
 悲鳴のような叫びをあげながら、由羅は執拗に攻撃を繰り返す。
 安芸はそれを全て巧妙に流星華で受け止め、流していた。
「美弥かボクか、どっちかを――」
 全身から凄まじい怒気を噴出させながら由羅は攻撃を続ける。
「おまえは選ぶべきだったんだっ!」
 剣と剣が重なり合い、視線と視線が絡まり合う。
「確かに僕は一年前、過ちを犯したのかもしれない。その代償として由羅――君を失った。そして、美弥も失った。だから今度はそうはさせない。柾士は誰にも奪わせない――僕が護る!」
 安芸の黄金の双眸が大きく見開かれ、眩い光を発した。
 流星華が由羅のレイピアを弾き返す。
 よろめいた由羅の右肩に、素早く黄金の刃が食い込んだ。
「――ぐっっ!」
 たまらずに由羅は大きく後退した。肩がひどく熱く痛かったが、それを気に懸けている余裕はなかった。
 光の翼を背負った美しき殺人鬼が、剣を振りかざし、迫り来る――
「僕には、柾士が必要なんだ!」
 安芸の双眸は由羅を殺すことにのみ集中し、冷たく輝いている。
「僕には、由羅から僕を解き放ってくれる光が――翔ぶための翼が必要なんだっ!」
 叫びつつ、安芸は容赦なく流星華を振り下ろした。
 金と銀の閃光が激しくぶつかり合う――


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Category * 堕天の翼
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