ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「やめるんだ、安芸くんっ!」
 柾士は安芸と由羅の間に割込み、正面から安芸に抱き着いた。
「柾士っ!?」
 驚愕を隠せない、安芸の顔。
 ヒュンッ!
 柾士の横っ面を冷たい刃が掠めた。
 剣と剣が交わる地点に、無謀にも飛び込んだのだ。
 頬を切り裂いたのは、由羅のレイピア――
「くっ!」
 鋭い痛みを感じたが、それでも柾士は安芸を離さなかった。
「柾士っ!」
 安芸が素早く流星華の軌跡を変更する。
 眩い一閃。
 黄金の光の粒子が柾士の視界を奪う。
 流星華が由羅のレイピアを下方から受け止め、力任せに撥ね除けた。
 レイピアが由羅の手から弾け飛ぶ。
 流星華の流れるような動きは、それでも止まらなかった。
 典雅で冷美――それでいて残酷な刃先は、狙った獲物を逃さない。
 だが、光に視界を閉ざされていた柾士は、その切っ先の行方を知らない――
「こんなことは止めよう、安芸くん!」
 柾士は、徐々に薄れゆく黄金の光の中で闇雲に叫んだ。
「安芸くんと由羅くんが、殺し合う必要はないだろっ!」
 安芸の服をひしと掴み、説き伏せるように言葉を吐き出す。
 安芸の顔が上がり、柾士を見つめた。
「冷泉の掟がなんだっ! そんなもの、どうでもいいだろっ! オレが……オレが、由羅くんと一緒に謝ってやるよっ! 土下座でもなんでもしてやる! だから、安芸くんも由羅くんも、もう止めよう! 嵯峨くんにも公暁さんにも、オレが謝ってやるっ! だから、だから――」
 柾士は矢継ぎ早に言葉を捲し立てた。
「……柾士」
 安芸が血の気を失った顔で柾士の名を呼んだ。
 彼の全身から黄金の光がスッと引いてゆく。
「もう……遅いよ……」
 安芸の顔が苦毒を呑み込んだように歪んだ。
 言い表し様のない虚無感が、安芸の全身に纏わりついている。
 柾士は安芸の虚脱したような様子に驚き、次に背後を振り返った。
「――――!?」
 刹那、愕然と目を見開く。
 柾士のすぐ傍に由羅がいた。
 その胸からは剣が生えている――流星華だ。
 研ぎ澄まされた刃には、由羅の胸から溢れ出す深紅の血液が伝い、ボタボタと地面に流れ落ちている。深々と刺さった流星華が、彼の胸から背中まで貫通していることは疑う余地もなかった……。
「……ゆ……由羅くん……」
 柾士は、悲鳴もあげずに流星華へ身を捧げた由羅を恟然と見つめた。
 由羅の顔は不思議と穏やかだった。
「おにーさん……あなた――」
 唇の端から血を滴らせる由羅が微笑む。
「美弥と……同じことを言ってくれた……ありがとう。美…弥……ごめん……殺して……ごめんね、おにーさん。……安芸を……よろしく――」
「あっ、ああ……君の大切な安芸くんはオレがちゃんと――」
 柾士は衝撃に打たれた表情のまま由羅を凝視した。
 自分が死に瀕しているというのに、彼は安芸のことを最優先に考えているのだ。
「でも、君も一緒だよ。今すぐ手当して、怪我を治して、元気になったら――安芸くんと三人で新しい生活を始めるんだ」
 気休めの言葉だと解っていも、柾士にはそれ以外何も言えなかった。
 由羅は何も応えずに静かに微笑んでいる。
「由羅くん、今、助けて――」
 柾士は安芸から奪うようにして流星華の柄に手をかけた。
「志木さん」
 その手に別の手が重なる。
「もう手遅れですよ」
 告げられる残酷な言葉。
 柾士は慄然と声の主を見遣った。
 いつの間にか傍に有馬美人が立っていた。
「有馬くん、そんなっ! 手遅れだなんて――」
 柾士は泣き出しそうな顔で美人を見つめた。
 だが美人は、沈鬱な表情で首を横に振るのだ。彼は柾士から視線を逸らし、由羅を見つめる。
「せめて彼と一緒に――」
 美人が由羅に青銀の玉を差し出した。
 由羅の手がゆっくりと動き、それを受け取る。彼は躊躇いもせずに玉を口に含み、呑み込んだ。
「……安芸」
 由羅の手が安芸へと伸ばされる。
 安芸は拒む事なく震える幼なじみの手を取った。
 由羅の顔に安堵の微笑みが浮かぶ。
「ボクは……安芸に選ばれなかった……あの時から……ずっと……ずっと……安芸に……殺されたかった……」
「由羅……」
 安芸がそっと由羅を腕に抱き締める。
 安芸の頬を涙が伝っていた。
 由羅の指が安芸の頬に触れ、優しく涙を拭う。
「泣かないで……ボクが……そう望んだ……」
「解ってる。……解ってるよ。でも、僕は――!」
「また……安芸から美弥を……奪ってしまった……ね。赦し……て…………全て……は……ボクの……罪――」
「それでも僕は……僕は、君が――大好きだった」
 激情を吐露するように告白する安芸。
 柾士の知らない、真の安芸の姿だった……。
「大好きだよ、由羅」
 安芸が強く由羅を抱き締める。
 同時に、安芸の頬から由羅の手が滑り落ちた。
 安芸の肩に顔を寄せる由羅の表情は、ひどく穏やかで、安らかだった。
 満足げな微笑みを刻んだまま、彼は逝った。
 悲壮な惨劇は幕を閉じたのだ。
 柾士はやり切れない想いを何処にぶつけてよいのか解らずに、空を仰ぎ見た。
 涙に濡れた夜空に、茫洋と星々が煌めく。
 乳白色に輝く上弦の月が、地上を――柾士を見つめていた。
 声を出さずに泣き続ける視界の中、全てを嘲弄するように、月が雲に隠された――


     「6.飛翔」へ続く



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2009.07.28 / Top↑
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