ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「あれ?」
「何だよ」
「馬鹿馬鹿しい」
 三人は同時に肩を落とし、吐息していた。
「――む? 何だ、おまえたち」
 照明の灯された弓道場に四人目の声が響く。
 艶やかな黒髪を頭の高い位置で束ねた人物が、弓矢を構えた姿勢のまま水柯たちにチラと視線を走らせた。
「こんな所で何をしている?」
 渋い緑色のスカートと長い髪が、軽く夜風に靡く。
 見慣れた制服に聞き慣れた声――
「ナオちゃん!」
 思わぬところでクラスメイトと出会し、水柯は嬉々とした叫びをあげた。
 徳川直杉――彼女の麗姿が弓道場にあったのだ。
 先刻の耳慣れない音は、彼女の放った矢が屋外の的に突き刺さる音だったのだろう。
「何をしているのだ?」
 直杉は突然の闖入者に驚いた様子もなく、構えていた弓矢を静かに下ろした。
「それは、こっちのセリフだ」
 樹里が忌々しげに舌打ちを鳴らす。
「そうだよ。何やってんだよ、直杉」
 充は半ば茫然と直杉を見つめていた。
「私は鍛錬に勤しんでいただけだが」
「六時までのはずだろ?」
 樹里が非難の眼差しで直杉を見上げる。
 樹里の身長は一七二センチ、直杉は一七四センチ。
 僅かに直杉の方が樹里より背が高いのだ。
「六時になって更衣室で着替えている間に、誰もいないものと見なされたらしいのだ。気づけば、武道館の出入口は施錠されていた。仕方がないので練習を続けていたところだ」
 直杉は淡々と事実を報告する。
 武道館の鍵は、外側からのみ施錠・解錠できる仕組みになっているのだ。
 中にいる時に施錠されれば、当然閉じ込められる結果となる。
 不便だが、創立以来変わらぬ仕組みだった。
「さっきまで暗かったのは、どうしてだよ?」
「ああ、精神集中のために明かりを消し、しばし暗闇で瞑想していたのだ」
「ったく、人騒がせな奴だな」
「騒がせたつもりはないのだがな。それより、田端たちは如何様にして入ってきたのだ?」
 樹里の嫌味に対して、直杉が涼やかな微笑を浮かべる。
「わたし、マスターキーを持ってるから」
 水柯は素早く鞄の中から鍵を取り出して見せた。
「理由は知らぬが丁度よい。練習に飽きたら外の木塀を乗り越えて脱出しようと思っていたが、そんな無茶をする必要もなくなったな。私も水柯たちに同行させてもらうとしよう」
 言い終えると同時に、直杉は黒髪を靡かせて身を翻した。
 流れるような動作で道場を進み、外へと降り立つ。
 的に突き刺さった矢を回収しに行ったらしい。
「勝手に同行決めやがって。これだから女って奴は……」
 背筋の伸びた直杉の後ろ姿を見据えながら、樹里がブツブツと呟く。
 水柯がそんな幼なじみを苦々しい思いで見遣ると、隣で充も苦笑を湛えた。
「一人増えたって構わないだろ」
「僕は自分より背の高い女なんて嫌いだ」
 樹里が思い切り眉をひそめる。
「俺は好きだけどな。あれくらいじゃなきゃ、俺と釣り合わないし」
 充が意味深に微笑む。
 すかさず樹里の鋭利な視線が充に流された。
「相変わらず趣味悪いな」
「おや、ヤキモチかな、可愛い樹里くん」
 充が瞳に悪戯な輝きを閃かせ、樹里の肩に手を回して引き寄せる。
 横目で充と樹里を眺めながら、水柯はこめかみの辺りを神経質に引きつらせた。
「ハイハイ。離れて、二人とも。それ以上近づいたら、二人をモデルにした恋愛マンガを描いて、学園中に配布するわよ。女子と一部男子に喜ばれることは間違いなしね」
「げっ、それは勘弁してよ。俺、女の子にモテなくなると困るし、男にモテるのはもっと困るから」
「そんなマンガで喜ぶ奴の気が知れないけれど、充と恋愛なんて徳川と同じくらい御免だね」
 冷ややかな水柯の宣告に、充が慌てて樹里から手を離し、樹里が不愉快そうに身を引く。
 二人の間にできた空間に強引に身を滑り込ませると、水柯は満足げに頷いた。
 それから、道場へと引き返してくる直杉に視線を馳せ、顔を綻ばせる。
「ナオちゃんがいてくれてよかった。わたし、すっごく心強いな」
 実は、女の子一人という状況が結構心細かったのだ。
 不気味な校舎に足を踏み入れた時点で、密かに『同じ境遇の女の子がほしい』と願っていただけに、直杉の同行は殊の外嬉しかった。
 もっとも、徳川直杉を普通の『女の子』と称するには些か疑問が残らないでもないが……。
「心強くてよかったな。徳川なら、僕や充より遙かに頼りになるからね」
 喜びを露わにする水柯に、樹里が嫌味たっぷりの言葉を浴びせる。
 水柯は幼なじみの真意が掴めずに目をしばたたかせ、数秒経ってからニヤリと笑った。
「ねえ樹里、それってヤキモチ?」
 その問いかけに対して、樹里はフンと小さく鼻を鳴らしただけだった。

     *



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2009.05.31 / Top↑
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