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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Thu
2009.07.30[08:52]
 木造平屋建ての道場に着いたのは、神社を過ぎてから一分ほど経過した頃だった。
 松林が唐突に竹林へと変化し、その竹に囲まれるようにして道場は建っていた。
「竹……。都内の一般家庭に竹林っ!?」
 隆生は相も変わらず驚きの声を連発している。
 零治は呆気にとられている隆生の腕を引き、道場の玄関を開けた。
 玄関で靴を脱ぎ捨て、中へ上がり込む。
 正面にある重々しい木戸を引き開けると、そこが本道場だった。
 磨き上げられた檜の床の上に、袴姿の少年が立っている――有馬美人だ。
 零治たちと相対するように佇んでいる美人の両手には、美しく輝く日本刀が握られていた。
 青眼に構えられた刀の向こうに、双眸を閉じた美人の顔がある。
 精神統一を行っているのか、零治たちの訪れにも微動だにしない。
 瞳を閉じていても秀麗だと判る整った顔は、無表情。
 全身からは清廉な氣が立ち上っているように見える。美人の周囲だけ空気が研ぎ澄まされているような感じがした。
 その廉潔な立ち姿にしばし見入ってると、
「アレって、有馬だよな?」
 傍で隆生が囁いた。彼は茫然と美人を眺めている。
「そっ、噂の有馬美人だよ。ますます霊能者っぽいだろ?」
 零治はからかいを含んだ笑みを隆生に向けてから、美人へ視線を戻した。
「よお、ビジン」
 零治が気さくに呼びかけると、美人の閉ざされていた瞼が跳ね上がった。
「零治――」
 黒曜石のような双眸が零治の姿を認めて嬉しげに輝く。
 一瞬にして、美人を包み込んでいた不可思議な空気が消失した。
 彼は刀を降ろすと、滑らかな足取りでこちらへ歩み寄ってきた。
「オイ、真剣を振り回しながら来るなよ」
「ああ、ごめん」
 零治が注意すると、美人はすぐに身を翻した。
 道場の隅に置いてあった鞘を取り上げ、慣れた手つきで日本刀を納める。それから、彼は改めてこちらへ接近してきた。
「どうしたの?」
 真夏に袴姿だというのに汗一つかいていない美人の顔が、零治を見上げる。
 切れ長の双眸が澄んだ輝きを放っていた。睫毛は女性のように長く、薄目の唇は紅を塗ったように赤い。
 純和風かつ中性的な容貌――それが、女生徒たちに様々な妄想を抱かせている有馬美人だった。
「遊びのお誘い」
 零治は口の端に微笑を刻み、美人を見返した。
「すげぇな。ソレ、本物の刀なんだ」
 心の奥底から感嘆しているような隆生の声に、美人が彼の方を見遣る。今初めて、隆生の存在に気づいたような感じだ。
「こいつ、A組の和泉隆生」
 零治が隆生を紹介すると、美人は静かに頷いた。
「知ってる。よく零治と一緒にいるから」
「じゃ、詳しい紹介は要らないよな。奥多摩にある和泉家の別荘に遊びに行くことになったんだけど、おまえも行かないか? 隆生がどうしても一緒に来てほしいんだってさ」
「僕に?」
 美人が解せない様子で小首を傾げる。怪訝な眼差しが零治と隆生に交互に向けられた。
「話せば長くなるんだけど、とにかくおまえが必要らしい」
「――解った。とりあえず着替えてくるから、少し待ってて」
 思いの外すんなりと首肯し、美人が踵を返す。更衣室へと向かったのだろう。
「あいつ、やけに素直だな。何か……嫌な予感がする」
 零治は、背筋の伸びた幼なじみの後ろ姿を見つめながら溜息を落とした。
「何だよ、有馬が来てくれれば万々歳だろ。オレにとっては万事オッケーだ」
「万事オッケーじゃなくなるんだよ。幽霊だか何か知らないけど――事態がより重く、より深刻になるに決まってる」
「やっぱり有馬は霊能者で、霊媒体質だから霊が集まってくるとか、そういうことか?」
 隆生が好奇心に瞳を輝かせる。
 零治はガックリと肩を落とした。
「おまえは気楽でいいよな。下手すると、幽霊どころの話じゃなくなるのによ……」
 ブツブツと隆生にも聞こえないような小声で呟く。
「有馬が来てくれると嬉しいな。初めて間近で見たけど、有馬って他人とは何か違うオーラが出てるよな。ホントに悪霊祓いとかできそうな雰囲気だし、楽しみだな」
 期待に満ちた眼差しで美人が消えた更衣室を眺め、隆生が笑顔を浮かべる。
 零治は隆生の顔を恨めしげに見つめ、もう一度溜息を吐き出した。


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Category * 水幻灯
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