ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 須玖里要は、自分の口から飛び出した悲鳴で目を覚ました。
 瞼をはね上げる。
 世界は闇に覆われていた。
 自分の荒い呼吸音だけが暗闇に響いている。
 要は緩慢な動作で片手を胸に当てた。
 鼓動が異常に速い。
 身体の至る所から冷たい汗が噴き出し、目覚めを不快なものにしていた。
 早鐘のように打ち鳴る心臓を落ち着かせようと、深呼吸を繰り返す。
 そうしているうちに次第に目が闇に慣れてきた。
 馴染みのある天井の模様が暗闇にぼんやりと浮かび上がってくる。
 自室のベッドで眠っていたことを思い出し、要はホッと息をついた。
 長い夢を見ていた。
 悪意の結晶のような夢だった。
 妙にリアルだった夢を反芻すると、身体が震えた。全身を濡らす冷や汗が更に身震いを煽る。
 要は顔をしかめながら身を起こし、悪夢を払拭するようにかぶりを振った。
 ベッドの真横に垂れ下がるカーテンを払い、窓を開け放つ。
 上半身を捩るようにして窓から外を覗くと、タイミングよく春の夜風が頬を撫でていった。風に吹かれて、額に張りついていた前髪が軽く揺れる。
 要は片手で額の汗を拭うと、深い溜息を落とした。
 嫌な夢を見たのは、神栖倫太郎の来訪のせいだ。
 午前零時を少し回った頃、倫太郎が須玖里家を訪ねてきたのだ。
 要の両親と倫太郎は、深刻な様子で何事かを話し合っていた。
 倫太郎の姿を目にしたくなかったし、会話の内容も聞きたくなかったので、要は自室に引きこもり、布団で耳を塞ぐようにして眠りに就いたのだ。

 ――明日、僕は死ぬだろう。

 五年前、同じ名を持つ叔母が生命を失ったように。
 要は自嘲気味に唇を歪め、窓から空を見上げた。
 不吉な前兆のように、雲影から月が姿を現す。
 紅い月を見て、要は冷笑を浮かべずにはいられなかった。
 月は、五年前と同様に禍々しく輝いている。
 また、あの時と同じ悲劇が起こるのだ。
 違うのは、今度は叔母ではなく自分が死ぬということだけだ。
「死期が迫ってるから、あんな夢を見たんだ」
 良心の呵責が様々な悪夢を紡いだとしか思えなかった。
「玲は、僕を恨んでいるだろうね。だから、せめてもの罪滅ぼしに、僕は自分の身に起こることを全て受け入れるよ」
 久しく逢っていない幼なじみの姿を脳裏に思い描き、要はそっと呟いた。
 紅い月に触発されて、神社の祠で眠っていたはずのものが目醒めてしまった。
 だから、村では人死にが相次いでいるのだ。
 終わらせるには、自分が生命を投げ出すしかない。
 それが昔からの習わし――緋月村に伝わる忌まわしい仕来りだ。
 須玖里家に生まれたからには、その運命に従うしかない。
「僕はもうすぐ死ぬ。でも、決して無駄死にはしない」
 要は己に言い聞かせるように囁き、枕元へと手を伸ばした。
 枕の下には、折り畳み式のサバイバルナイフを忍ばせてある。
 要は躊躇わずにそれを掴むと、眼前に翳した。
「これまでの要みたいに、ただ殺されるのは御免だ。僕は諦めない。最期まで闘う」
 片手でナイフを握り締め、祈るように囁く。
「絶対に諦めたりしない。必ずあの怪物を道連れにしてやる」
 ――あいつさえいなくなれば、玲は村から解放される。
 要はきつく唇を噛み締め、決然と夜空を見据えた。
 紅い月は不気味に村を見下ろしている。
 要はナイフを握る手に力を込め、殺意の漲る眼差しで月を射た。


     「七.戒厳令」へ続く



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2009.08.01 / Top↑
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