ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
    *

 新たに直杉を加えた一行は、再び旧校舎に舞い戻っていた。
 旧校舎までの道すがら、直杉には学園に忍び込む羽目になった経緯を話してある。
「水柯は時折ヘマをするからな」
 事情を聞き終えた直杉が、無表情のまま素直な感想を述べる。
「ナオちゃんだって、武道館に取り残されてたじゃない」
 水柯は頬を膨らせませて抗議した。
 直杉の顔にうっすらと笑みらしきものが浮かぶ。
「確かに、私も他人のことは言えぬな。――それはさておき、水柯の原稿を入手すれば学園から出られるのだな?」
 直杉が確認の問いを発する。
 他の三人は頷きで応じた。 
 原稿さえ手に入れてしまえば、夜の陰鬱な学園になど用はない。
 さっさと用事を済ませてしまおう、というのが皆の同一意見だった。
 二年生の教室は、新校舎の三階にある。
 何のことはない。そこまで行って原稿を回収すればいいだけのことだ。
 水柯は直杉と肩を並べて歩きながら、所在なげに廊下のあちこちに視線を漂わせていた。
 照明が灯されているとはいえ、静寂に支配された校舎はやはり気味が悪い。
 チカッ。
 と、何かが瞬いたのは、廊下の中程まで歩を進めた時だった。
「――――!」
 水柯は心臓がドクリと脈打つのを感じた。自然と足が止まる。
 ――今、光った……。
 校舎の内部ではなく外部で。
 飾り窓で彩られている中庭側の硝子が輝いたように見えたのだ。
 水柯は怖々とそちらへ首を巡らせた。
 チカッ……ザバッ!
 また青白い光が視界をよぎる。
 今度は、ただ光っただけではなかった。
「あっ……う、ええっ!?」
 水柯は驚愕に目を剥いた。
 中庭の噴水が青白く輝いたのだ。
 更に、噴水の水が大きく盛り上がり、螺旋を描きながら噴き上がるのを、水柯はしっかりと目撃してしまった。
 全身に悪寒が走る。
 水柯は恐怖を押し殺し、窓に駆け寄った。
 硝子にへばりつくようにして外を眺める。
 しかし噴水はもう輝いてもいなければ、水を噴き上げてもいなかった。
「な、何よ、今の――」
「どうした、水柯?」
 水柯の突飛な行動を不審に思ったのか、樹里が疑問を投げかけてくる。
「い、い、今、光ったのよ」
 チカッ。
 水柯の声に呼応するように、また何かが光った。
 直ぐ様、皆の視線が天井に集中する。
 今、瞬いたのは廊下の照明だったのだ。
「電気だよ。調子悪いなぁ」
 充が天井を見上げたまま不満げにボヤく。
 チカッ、チカッ……。
 電流を通すのに限界が近づいている電球が幾つかあるらしい。
 蛍光灯の光量が不安定になり、不規則に明滅を繰り返しているのだ。
「違う。そうじゃないのよ! 噴水が……中庭の噴水が――」
 水柯は先ほどの奇怪な現象を何と表現してよいのか解らずに、窓を指差しながらヨロヨロと後ずさった。
 トンッと背中が何かにぶつかる。
 それが樹里の胸だと判断できたのは、彼の手が優しく水柯の肩に添えられ、美声が耳をくすぐったからだ。
「噴水の底に照明装置を設置したなんて話は聞かないよ。噴水が光るわけないだろ。第一、夜間は噴水自体が動いていないはずだ」
「で、でも、確かに光ったし、水を噴き上げてたのよ。水音だって――」
 水柯は窓を凝視したまま喚いた。
 更に言を連ねようとして、ハッと息を呑む。
 ポツン……ポツン……。
 目前の窓硝子に水滴が落ちてきたのだ。
 それは硝子に当たっては弾け、ゆっくりと細い水の筋を作り始める。
「早いな。天気予報では夜半からだって言ってたのに」
 充が窓に視線を向け、首を捻る。
「雨か。月が隠されたな」
 長い指を硝子に伸ばし、直杉が淡然と囁く。
 その一言が、他の三人に落雷のような衝撃をもたらした。




← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト
2009.05.31 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。