ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
 月が隠された――月が出ていない。
「ナ、ナオちゃん!」
 たまりかねて水柯は大声を張り上げた。
「何か妙なことを言ったか、私は」
「バカ。月が隠された、ってことは――」
 充があたふたと言葉を紡ぐ。
「今は『月のない夜』ってことよ! だから、だから……」
 水柯の金切り声が廊下に響く。
 後に続く言葉は、樹里が引き継いでくれた。
「月のない夜、九月九日――水妖伝説だ」
 樹里に指摘され、直杉の双眸にようやく鋭い眼光が閃いた。
「なるほど、水妖伝説か。しかし、私を含め、ここにいる皆はそんな馬鹿げた伝説など信じていないのではなかったか」
 他の三人の緊張を歯牙にもかけず、直杉は冷静に言葉を繰り出す。
「信じたくないけど、万が一ってことが――」
 水柯の声はまたしても志し半ばで途切れた。
 チカッ……チカッ。
 廊下の電灯が一斉に点滅し始めたのだ。
 チカッ、チカッ。
 間隔は次第に忙しなく狭まってゆく。
 チカッ、チカッ、チカッ!
 急激に暗闇が訪れた。
 電球が激しく瞬いた末に、突如として光を灯さなくなったのだ。
 しばらく、雨の音だけが聞こえていた。
 雨は強くなる様子もなく、しとしとと降り続けている。
「な、何なのよ、これっ!?」
 肩に置かれた樹里の手をひしと両手で握り締めながら、水柯は叫んだ。
 だが、応える者は誰もいない。
 叫びが虚しく闇に吸い込まれた後、
 ……しくしく……しくしく。
 女の啜り泣きのようなものが闇の奥から届けられた。
 戦慄が水柯の全身を駆け抜ける。
 哀愁を漂わせる啜り泣きは続く。
 耳に入ってくるというのではなく、直接脳に響くような泣き声だ。
『わたしは、ここよ。早く見つけて……』
 じめじめとした女の声が闇を漂う。
「ふ、ふざけないでよ」
 震える唇から情けない声が洩れる。
 女の啜り泣きは止まない。
「いやっ……いやよ」
 水柯は恐怖が頂点に達するのを自覚した。
 ――幽霊なんて、水妖なんて信じない!
「いやぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
 絶叫が暗澹とした廊下に谺した。


          「6.閉ざされた水域」へ続く




← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト
2009.05.31 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。