ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 暗闇の中に三つの光点が灯る。
 和泉家の別荘を囲む闇は深い。
 生憎、月は雲に隠されて見えない。
 小さな三つの光だけが闇を照らす光だった。
「ホントにやるのかよ?」
 零治は頼りなげな懐中電灯の光を見つめながらボヤいた。
 懐中電灯に照らされて、美人、隆生、ユキ、翠――四人の姿が闇に浮かび上がっている。
 午後、零治たちは計画通りに日原鍾乳洞と百尋の滝を観に行ってきた。
 神秘的な鍾乳洞と荘厳な瀑布の余韻に浸っていたのも束の間、別荘へ戻った時には皆の意識は肝試しへと集中していた。
 夕食の席で肝試しのルールが話し合われ、くじ引きでペアが決まり、午前零時を過ぎるのを待って外へ出てきたのだ。
 ただでさえ鬱蒼としている森は、夜の衣を纏い暗黒の塊と化している。
 なのに隆生は『より雰囲気を出すため』と言い、別荘の照明を全て落としてしまったのである。
「ここまで来て、なに言ってるのよ。少しは楽しみなさいよ」
 ユキが心底楽しそうに笑う。彼女の片手には太い蝋燭が握られていた。
 肝試しのルールは至って単純。
 別荘裏手の森を抜けて水神池へと出る。池をぐるりと一周し、四阿で蝋燭に火を灯す。前のペアが出発してから五分後に次のペアがスタート。
 それだけだ。森を彷徨う距離も所要時間もさほど長くはない。
「諦めが肝心だぜ、零治。――んじゃ、オレたち出発するわ」
 隆生が陽気に告げ、片手を振る。その隣でユキも笑顔のまま頷いた。
 最初のペアは隆生とユキなのだ。次が零治と翠。最後に美人が一人という順番だった。
「じゃあ、また後でね」
 ユキが皆に手を振り、身を翻す。懐中電灯を持った隆生が片手を差し出すと、彼女は当然のようにそこに自分の腕を絡ませた。
 二人の姿はすぐに闇に紛れる。
 懐中電灯の明かりが揺れる中、ユキの『何も見えない』『こわーい!』というはしゃいだ声が響く。
「従兄妹同士であんなにはしゃいで、何が楽しいのか解らんな」
 苦々しく呟き、零治は懐中電灯片手に振り返った。
 すぐ後ろには翠と美人の姿がある。
「血の繋がりはあるけれど、従兄妹同士は――他人よ」
 ふと、翠が謎めいた言葉を紡ぐ。
「それ、矛盾してないか?」
「血は繋がっていても、従兄妹同士なら婚姻は認められてるわ。恋愛は可能ってことよ」
「どういう意味だよ? まさか古市のヤツ、隆生のこと――」
「さあ、どうかしらね」
「オイ、教えろよ」
「女の子の秘密は、あまりしつこく追及しない方がいいわよ」
 含み笑いを洩らし、翠は零治から視線を逸らした。その眼差しが美人へ向けられるのを確認して、零治はそれ以上の詮索を諦めた。
 ユキの態度を見る限り、到底隆生に気があるとは思えない。
 今の翠の発言は、他愛もない冗談だったのだろう。
「ねえ、有馬くん。朝食の時、思わせぶりなことを言ってたわよね。まるで、何か起こることが解っているみたいな口振りだったけど……。やっぱり、何か感じるの?」
 翠が蝋燭を両手に握り締め、不安そうに美人を見上げる。
「何度も言ってますけど、僕は霊能者じゃありませんよ」
 美人の顔に苦笑が刻まれる。
「零治の言う通り、本当は肝試しなんてしてはいけないんです。不謹慎なことなんですよ。眠りに就いている霊や神を目醒めさせ、彼らの怒りに火を点けるような愚行ですからね」
「じゃ、なんで賛成したんだよ?」
 零治が不満たっぷりに睨むと、美人はまた苦笑した。
「水の神様にちゃんと逢ってみたいから」
「また、はぐらかしやがって」
「その方が有り難いんじゃないの? どうせ零治は、僕の説明が小難しくて理解不能だと思ってるんだから」
 澄ました顔で美人が告げる。
 まったくその通りだったので、零治は言葉に詰まってしまった。
「それより、そろそろ時間じゃないの?」
 美人が話を切り上げ、懐中電灯で腕時計を照らす。
 零治は時計の文字盤を覗き込んだ。隆生とユキが出発してから五分が経過しようとしている。
 次は、零治と翠がスタートする番だ。
「それじゃ行きますか」
 零治は翠を促した。
 翠が緊張に顔を強張らせ、小さく頷く。
「気をつけてね」
 美人の言葉を背に、零治と翠は闇に包まれた森へと向かって足を踏み出した。



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2009.08.02 / Top↑
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