ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 夜の静寂が切り裂かれる。
 零治は反射的に水神池のある方へと視線を飛ばしていた。
 悲鳴は池の方角から聞こえてきたのだ。
「いやっ! 何なのよ!?」
 甲高い女の叫びが森に谺する。
「ユキだわ」
 翠が驚愕に身を震わせ、目を見開く。
 次の瞬間、彼女は駆け出していた。
「真野、危ないから俺より先に出るな!」
 零治は慌てて翠を追い、彼女の手を掴んだ。
 懐中電灯を持っているのは零治なのだ。零治が先に立って走った方が安全だし、効率もよい。
「落ち着けよ、ユキッ!」
 隆生の声が間近に迫る。
「池で何かあったのか?」
 零治は舌打ちを鳴らし、駆ける足に力を込めた。翠も必死についてくる。
 すぐに開けた場所へと辿り着いた。
 水神池の対岸――四阿の近くで懐中電灯の明かりが忙しくなく揺れている。
 だが、零治たちのいる場所から隆生とユキの姿を捉えることはできなかった。夜の暗闇が邪魔をしている。
「どうした、隆生っ!?」
 零治は対岸に向けて声を張り上げた。
「解んねぇ! ユキが何か見たって言うんだよっ!」
 隆生が怒鳴り返してくる。
 ユキの錯乱したような声がそれに続いた。
「黎子よっ! 黎子がいたのよっ!!」
 ユキは昨夜の翠と同じようなことを口走る。
 零治はギョッとして翠を見遣った。
 翠は凍りついたようにその場に立ち竦み、唇を震わせている。
「いやっ! 何なのよ、この池っ!」
 ユキの叫びに釣られて、零治は池に視線を戻した。
 そして、絶句した。
 池の水面が青白い光を発しているのだ。
 幾つもの青白い光の玉が水中から生まれ、宙に浮かび上がる。
 空中に現れたそれは、ふらふらと闇を浮遊し始めた。
「火の玉……って、マジかよ?」
 零治は愕然と独り言ちた。
 宙で揺らめく青白い炎は、俗に火の玉とか人魂とか言われるものにしか見えなかった。
 生まれて初めて目の当たりにする怪異に、零治は我知らず息を呑んでいた。
 誰もが恐怖と驚愕で動けぬまま、青白い炎が池から生まれてくるのを凝視している。
 不意に、辺り一帯の温度が低くなったような気がして、零治は身を震わせた。
『山は異界だよ』
 有馬美人の言葉が脳裏に甦る。
 その時、背後の茂みがガサガサと激しく揺れた。
 零治は恐怖に強張った顔で後ろを振り返った。
 視界に、有馬美人の姿が飛び込んでくる。
 幼なじみの顔を見て、零治は安堵した。ユキの悲鳴は美人にまで届いたのだろう。異変を察知して、彼は急いで駆けてきたに違いない。
「鬼火……」
 池の異常を見るなり、美人は呻くように呟いた。
 そうかと思うと急に双眸を見開き、鋭利に水面を睨みつける。
「違う――陰火だ。下がって、零治!」
「オイ、《インカ》って何だよっ!?」
「妖怪が出現する時に一緒に現れる火のことだよ」
 美人が早口に告げた直後、池の水が大きく盛り上がり、派手な飛沫をあげた。
 水飛沫と同時に池の中から何かが飛び出し、地上へ降り立つ。
 無数の陰火に照らされて、異形の姿が妖しく浮かび上がる。
 対岸でユキが盛大な悲鳴を発した。




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2009.08.03 / Top↑
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