ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 それは人よりも小柄で、姿は古来より日本に伝わる物の怪――河童に似ていた。
 三、四歳の子供くらいの体躯。
 身体に不釣り合いな長い手。その先には水掻きと鉤爪のついた指があった。
 全身は緑色の鱗で覆われており、目は獰猛さを表すように赤く輝いている。
 奇怪な鳴き声を発する口には、鋭い歯がびっしりと並んでいた。
 河童と異なるのは、頭の皿と背中の甲羅がないことぐらいだろう。
 河童に似た物の怪は、次々と池から姿を現し、四阿の方へと移動していた。
 隆生とユキを標的とし、集い始めている。
「水虎だ。スイコサマが、この池の守り神だったのか」
 恐怖に動けぬ零治たちを尻目に、美人が一人納得したように呟く。
「スイコ? 神? 一体何なんだよ、この状況はっ?」
「水虎は水に棲む妖怪――神様だよ。水神池は和泉君の曾お祖父様の言う通り、神様の棲む池だったんだ。そして僕たちは、彼らを怒らせてしまったみたいだ」
「そんなこと悠長に言ってる場合じゃないだろ! 大体、おまえ、水の神様は佐渡と同じ顔してるとか言ってなかったかっ!?」
 零治は突然の怪異に仰天し、喚き散らした。
「それは、また別の神様。とても珍しいことだけど、この池には二種類の神様がいるみたいだ。元々土着の神として棲みついていたのは水虎の方だよ、きっと」
 訥々と述べながら、美人は足を踏み出した。池の対岸へ行こうとしているのだ。
「オイ、どうする気だよ?」
「どうする――って、和泉君と古市さんを見殺しにはできないよ。零治は真野さんとここにいて」
 全てを言い終えないうちに、美人は駆け出していた。
「有馬くん、やめてっ! あんな化け物に敵うわけないじゃない!」
 翠が悲痛な叫びをあげる。同時に彼女は地を蹴っていた。何とか美人を思い留まらせようとしているのだろう。
 しかし、それはかえって美人の足手まといになる。
「待てよ、真野!」
 零治は慌てて二人の後を追った。
 池の淵を走っていた美人が首だけをねじ曲げてこちらを顧み、驚いたように目を丸める。
「どうして、ついてくるの?」
「しょうがないだろ。真野が……!」
 叫びを返しながらも零治は必死に駆け、翠の手首を捕まえた。
 翠が足を止め、険しい表情で零治を振り返る。
「離して! 有馬くんを一人で行かせるなんて狂気の沙汰よ!」
「俺たちが行っても役には立たない。頼むから、大人しくしてくれ」
 零治が懇願すると、翠は口惜しそうに歯噛みした。
「零治、絶対にそこを動かないでよ。いざとなったら降ろすから!」
 美人の玲瓏たる声が響く。
 零治は頷き、視線を隆生たちの方へ転じた。
 隆生とユキは恐怖に立ち竦んでいる。あまりの衝撃に悲鳴を発することも忘れているようだった。
 二人の周囲には水虎が集いつつある。
 無数の水虎が威嚇の唸り声を発し、隆生たちに迫っていた。



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2009.08.03 / Top↑
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