ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「雷師(らいし)!」
 水虎の一団に距離を詰めた美人が短く叫ぶ。
 転瞬、美人の左手が黄金色の光を発した。
 手から離れた黄金の光が宙に浮かぶ。
 それは、美人の中指に填められていた指輪だった。
 指輪は瞬時にその姿を変えた――美しい日本刀へと。
 美人の左手が、宙に浮かぶ刀の柄を躊躇いもなく掴む。
 その瞬間、黄金の輝きが消え失せ、冴え冴えとした刀身が陰火の青白い炎を反射して煌めいた。
 美人が目にも留まらぬ速さで、水虎の群れに飛び込んだ。
 日本刀を巧みに操り、容赦なく水虎たちを斬り倒す。
 裂かれた水虎の身体は脆く崩れ、緑色の燐光を放ちながら霧散していった。
「有馬くんは何者なの? 人間が妖怪と闘ってるなんて、信じられない……」
 零治の隣で翠が息を呑む。
「有馬家は神主の系譜なんだよ。何の神様を祀ってるのか知らないけど、家にはちゃんと神社もある。ビジンは覡(かんなぎ)――巫覡(ふげき)なんだ。あの日本刀とかも巫術ってことになるらしい」
「巫覡……神様の遣い。シャーマンってことなの?」
 呆けたように翠が呟く。
 その間にも美人は水虎たちを斬り伏せ、確実に隆生とユキのもとへと進んでいた。
「いやっ! 化け物に殺されるなんて嫌よっ!!」
 水虎たちに追い詰められたユキが、蒼白な顔で絶叫する。
 その声に触発されたかのように、一体の水虎がユキ目がけて跳躍した。
 隆生がユキを庇うように、彼女に覆い被さる。
 ユキの口から悲鳴が迸った。
「古市さん、水虎を刺激してはいけません!」
 美人が敏捷にユキたちの前に飛び出す。
 奇怪な雄叫びをあげ、跳躍した水虎が鋭利な鉤爪を振り翳した。
 獰猛な爪が美人の胸部を斜めに裂く。
 血の飛沫が舞った。
「いやぁぁっっっっっ!!」
 翠が目を瞑り、絶叫する。
 零治は咄嗟に地を蹴っていた。幼なじみを護ろうとする本能が身体を突き動かす。
「ビジンッ!」
「来るな、零治!」
 鋭い制止の声に驚き、零治は足を止めた。
 美人は、身体によじ登り、首に噛みつこうとしている水虎と格闘していた。
 零治に向けられた眼差しには強い光が宿っている。頑なに零治を拒絶していた。
 現状は、零治如きに対処できるものではないのだ。
 零治はもどかしさに強く奥歯を噛み、美人を見返した。
 美人は絡みつく水虎を片手で引き剥がし、更に蹴り飛ばした。
「雷師」
 美人は水虎たち鋭い眼光で睨めつけ、日本刀を前に突き出した。
「雷師よ、貴き神よ、この地に奉りたまえ」
 美人が日本刀を両手で水平に持ち、目の高さに掲げる。
 切り裂かれたシャツが血の色に染まりかけているが、それに頓着する素振りは微塵もない。彼は静かに瞼を閉ざした。
「古より流るる覡の血において願い請う。天より降り、この身に依りて、我に力を貸したまえ」
 美人の唇から厳かな声が紡がれる。
 神降ろしの儀が始まったのだ、と零治は即座に察した。
 古来より、言葉には霊魂が宿ると信じられてきた。それが言霊である。昔の人々は言霊の力を知り、神様に奏上する言葉は必ず神様に届くと信じて疑わなかったのだ――と、いつの日か美人が言っていた。
 神様に奏上する言葉を祝詞という。
 美人が今紡いでいるのは、神を招請する祝詞だった。
「十拳剣(とつかのつるぎ)より生まれし刀剣の神霊にして、猛々しく勇ましい御雷の神――建御雷之男神(たけみかづちのおのかみ)よ、勧請白す」
 玲瓏な響きを宿した祝詞が終わりを告げる。
 刹那、天空から稲妻が迸った。



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2009.08.03 / Top↑
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