ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 歩いて二十分ほどで村の南に位置する青蘭学園分校に到着した。
 しかし、正門に辿り着いた瞬間、莉緒は大きな疑問と出会す羽目に陥った。
 正門が開いていないのだ。
 門は、両開きの鉄柵によって堅く口を閉ざされている。
「あれ、今日って休み……だったかな?」
 莉緒は茫然と学舎を眺めた。
 昼休みだというのに、校庭には生徒の姿がない。天気がよければ、生徒たちはサッカーや野球などをしてグラウンドを駆け回っているはずだ。
 校舎に視線を転じる。
 一階から三階まで開いている窓もなければ、日除けにカーテンを引いている教室もない。
「今日は日曜でも祝日でもないわよね?」
 莉緒は諦め悪くもう一度校舎に視線を投げた。
 だが、やはり状況は変わらない。
 いくら目を凝らしても、窓際に人影を発見することはできなかった。
 莉緒は事態を把握しかねてポカンと口を開けた。
 瞬きを幾度か繰り返した後、セーラー服姿の自分と無人の校舎を見比べる。寝坊したのにわざわざ登校してきた自分が、ひどく馬鹿馬鹿しく思えてきた。
 間の抜けた表情で制服と校舎を何度も見直していると、
「オイ、何で今頃登校してきたんだよ?」
 唐突に頭上から少年の声が降ってきた。
 莉緒が驚いて振り返るのと、窓の開く音が響いたのが同時だった。
 学校の正面には、宮沢商店という文房具屋がある。その二階のベランダに少年の姿を発見した。
「あっ、おはよう、宮沢くん」
 ベランダに出てきたのは、宮沢商店の次男――莉緒の同級生でもある宮沢直樹だった。
「おはよう――じゃないだろ。何で出てきたりしたんだよ! 学校は休みだって、連絡網で報せが回っただろ」
 直樹はベランダの手摺から身を乗り出し、不機嫌そうに莉緒を見下ろした。
「連絡網? 叔父さんが電話に出たみたいで、わたし――知らないわ」
 莉緒は言い訳がましく反論した。
 連絡網で休校の報せが回ってきたとしても、昼までぐっすり眠りこけていたので電話のベルなど聞こえなかった。電話に出たはずの亮介は、そのことを報せることなく往診に出てしまっている。
 とにかく、莉緒には休校の報せなど届いていないのだ。
「蕪木の言い分なんてどうでもいいけどさ、休みは休みなんだよ。さっさと帰れ」
「どうして、突然休みになったの?」
「村長がそう決めたんだ。学校だけじゃない。村全体が休みだ。みんな家に籠もってる」
 ぶっきらぼうに直樹が告げる。
 そこで初めて、宮沢家の一階――店舗に当たる部分のシャッターが降ろされていることに気づいた。いつもなら、こんな時間に店を閉めていることなどない。直樹の言葉が真実ならば、宮沢家の人間は村長命令に従い、店を開けずに朝から家に閉じこもっているということになる。
 何とも不自然な感じだ。
「村長は、なぜそんなお達しを出したのよ?」
「俺が知るか」
 直樹は吐き捨てるように呟き、人目を憚るように忙しない視線を四方に巡らせた。
「俺がベランダに出てるのだって、ホントは凄く危険なんだ。それ以上に、そんなトコに無防備で突っ立ってる蕪木は危ないんだぜ。だから、さっさと家に帰れ」
「何が……危険なのよ」
「今、外に出るのは危険なんだ。俺には、それしか言えない。とにかく早く家に帰れ」
 念を押すように忠告を繰り返し、直樹は背を返した。
 莉緒が呼び止める間もなく、窓が閉められ、カーテンが引かれる。
「ちょっと待って! 詳しく説明してよ!」
 莉緒は大声を張り上げた。いきなり『帰れ』と言われても納得できない。
「宮沢くんっ!」
 何度も呼びかけてみたが、直樹が再度姿を現してくれることはなかった。
 二階の窓を覆うカーテンは微動だにしない。
 しばしその場に立ち竦んだ後、莉緒は直樹を待つことを諦めた。彼の言葉は明らかに説明不足だが、その忠告が親切心から出たものであることは間違いない。彼が語った村長命令というものも嘘だとは思えなかった。どこにも出かけないように――という亮介の書き置きは、村長命令を踏まえてのものだったのだろう。
「一体、何がどうなってるの?」
 莉緒は渋面で周囲を見回した。
 学校の斜め向かいにある交番に目が行く。派出所はもぬけの殻だった。警察官までもが職務を放棄しているらしい。
 異常事態だ。
「そういえば、ここに来る時、誰にも逢わなかったかも……」
 莉緒は険しい顔で、学校までの道のりを反芻した。
 登校中、誰とも擦れ違わなかったし、誰の姿も見かけなかった。
 道路を走行する自動車も見なかったし、農作業に没頭する人々の姿もなかった。
 誰の姿も見ないなんてことは、深夜ならまだしも日中に起こり得るはずがない。いくら小さな村だとはいえ、買い物や外食に出る人はいる。何より、こんな農作業日和の午後に農家の人が一人も外に出ていないことが不思議だ。
「まるで……村から人が消えたみたい」
 俄に、誰にも逢わずにここまで歩いてきた――という事実が恐ろしく感じられてきた。
 言い表しようのない不安が胸に芽生える。
「やだ、怖い」
 村長の指示内容は全くもって不可解だが、村人たちは従順にそれを受け入れているらしい。神栖倫太郎の権力が強大すぎて従うしか術がないのか――それとも、そうしなければならない深刻な事態が起こっているのか……。
 莉緒には何も解らなかった。
 ただ、緋月村が自分の知っている長閑な山村ではなくなってしまったような気がして、怖かった。
「何が起こってるの? 誰か教えてよ」
 莉緒は震える声で呟くと、やにわに駆け出した。



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2009.08.04 / Top↑
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