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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sun
2009.08.09[09:02]
「これからまた練習だなんて、おまえも相当な『弓道バカ』だよな、徳川」
 徳川直杉と並んで廊下を歩きながら、高丸は物珍しそうな視線を隣に注いだ。
「単に、家に帰りたくないだけだ」
「……旧家も大変なことで」
 高丸は苦々しげに呟き、軽く肩を竦めた。
 徳川直杉。
 高丸と同じ三年E組の生徒であり、弓道部主将。
 そして名旧家――徳川家の嫡子。
 徳川家は、その名の通り、江戸幕府を開いた徳川一門の流れを汲むと伝えられている。
 武芸に秀でた家柄であり、家訓は至極厳格。直杉は次期総主として、一族から多大な期待と責務を負わされている身であった。
「おまえ、女なのに大変だよな、色々と」
「心配には及ばぬ」
 皮肉げな微笑が直杉の唇に閃く。
 高丸の発した『女』という言葉に対して反応を示したようだった。一見しただけでは男女の判別のつかない直杉だが、戸籍上の性別は歴とした『女』である。もっとも自他ともに女性という認識は軽薄なようだが……。
 高丸は溜息を落とした後、改めて直杉の能面のような顔に視点を据えた。
「相変わらず解んねー女。それに、オレは別に心配なんてしてな――」
「おや、祇園寺君」
 更に言を連ねようとした時、ふと背後から呼び止められた。
「あれ? 学園長……」
 声に誘われるままに振り向き、高丸は軽く目を見開いた。
 人の良さそうな白髪の男性が、爽やかな笑顔を浮かべて立っていた。
 この学園の園長――篠田三次(しのだ みつじ)だ。
 聖華学園は、幼稚部・初等部・中等部・高等部から成る巨大学園だ。それぞれの部に学部長がおり、その上に立ち、彼らを束ねるのが学園長の職務である。
「調子はどうだね、祇園寺君」
「……はぁ。別に普通ですけど?」
「祇園寺君は高等部バレー部の要。今年は国体でも全国制覇は確実ですな。ところで――先の大会の時、バレー部が『妙な力』を駆使して優勝した、という噂は事実なのかね?」
 不意に篠田の真摯な視線が高丸を射抜く。
「はい?」
 高丸は意味が解らずにポカンと口を開けた。
 篠田の言葉をゆっくりと胸中で反芻し――転瞬、心臓が停止しそうなほどの驚愕に見舞われる。
「えっ! あっ……みょ、妙な力っ!?」
「そう、何というのかね――ESPとか……」
 篠田が声のトーンをグッと落として囁くように告げた。
 高丸は一瞬硬直し、次に焦燥も露わに直杉と篠田を見比べた。
「イ、イーエスピーって……何ですか?」
 呆けたように質問を繰り出す。
「阿呆っ……! 平たく言えば、超能力だ」
 呆れの極致のような声音で直杉が言葉を放つ。同時に、高丸の脇腹を直杉の肘が鋭く突っ突いた。
「へ、へえ、超能力……。超能力ねぇ。ふーん。それって、な……にっ――げふっ!」
 全てを言い終えない内に強烈な痛みが脇腹に生じる。今度は、思い切り直杉に肘鉄を喰らわされたのだ。
「学園長。こんなバレー馬鹿に、そのようなことを訊くだけ無駄です」
 本気で痛がる高丸を尻目に、直杉は平然と篠田に言葉を返した。
「そ、そうかね、徳川君。しかし、本当に『妙な力』は関係していないのかね?」
 篠田の顔にサッと畏れの色が走る。その目は、直杉を直視することを避けるようにあやふやに宙を漂っていた。
「何処から出た噂かは敢えて聞きませんが――仮に超能力を保持している人間が現実にいたとしても、誇り高き聖華の生徒が、そのような愚行など犯さぬと思いますが」
「……いや、そうだね。徳川君の言う通りだ。私が迂闊でしたな。すまなかったね、祇園寺君、徳川君。二人とも、これからも我が学園のために頑張って下さいね」
 ホホホ……と奇妙な笑いを残して、篠田は逃げるように元来た道を引き返して行く。
「何を頑張れ、というのだ?」
 嫌悪を表すように、直杉の柳眉が軽く寄せられる。
「スゴスゴと帰っていったな。流石の学園長も徳川様のご威光には勝てません、と。徳川の家、学園一の寄付寄贈者だからな。それにしても、何だったんだ?」
「さあな。――ところで祇園寺、演技だと解っていても阿呆だな、おまえは」
 直杉の嫌味に高丸は顔を引きつらせた。
「おまえも、演技だと解っていても、本気で肘鉄喰らわせる冷酷なヤツだよなっ!」
 負けじと高丸は言い返した。
「当然だ」
 悪びれた様子もなく直杉が微笑する。
「……なあ、バレてんのかな、アレ?」
 高丸は直杉の余裕の笑みを無視することに決め、話題を転換させた。
 一抹の不安が高丸の胸中を浮遊している。篠田の言葉が棘のように心に突き刺さっていた。
「露見してはいまい。アレの存在は、私たち以外、誰も知らぬだろう。噂は噂だ」
「だよな。試合にアレを駆使してないことは事実だしな。神聖な試合にアレなんか使えるかっ!」
 高丸が意気込んで告げると、直杉は同調するように頷いた。
「しかし、あの学園長、何故アレのことを訊いてきたのだ?」
「オレが知るかっ!」
「気に懸かるな。……用心に越したことはない。馨(かおる)に報告しておこう」
「馨センセなんて頼りになるのかよ?」
「一応な。まあ、用心といっても――私たち四人に勝てる者などいない、と自負しているのだがな」
「四人? 志緒(しお)と紀ノ國屋(きのくにや)も入れるのかよ?」
 高丸は不満たっぷりにボヤいた。
「馨を入れないだけ有り難いと思え」
 冷笑混じりに返答し、直杉は篠田が去っていった方に視線を馳せる。
 高丸も釣られるように長い廊下に厳しい眼差しを注いだ。 
 篠田の後ろ姿が遠ざかり、階段へと折れて消えた――


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