ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 渋い緑色の群れが、学園前の道路を埋め尽くしていた。
 全て聖華学園の生徒である。
 蓬と深緑の中間のような変わった色の制服は、一目で聖華学園のものだと解る。初めて遭遇する人は、その物珍しい色の制服に目を奪われるようだが、M市では既にお馴染の光景である。
 朝の登校時――祇園寺高丸は、生徒の波から頭二個分も飛び出させ、学園へと続く道を走っていた。
「やっべー、完全に遅刻……!」
 遅刻――と言ったのは、授業のことではない。バレー部の朝練のことだ。
 熱血バレーボール少年の高丸にとっては非常に珍しいことだが、何故か今朝は寝坊してしまったのだ。
 走りながら、素早く腕時計に視線を流す。
 時刻は八時十分――今から体育館に向っても練習する時間などありはしない。
「チッ……ダメだ。やーめたっ!」
 投げ遣りに舌打ちを鳴らし、高丸は駆ける足を緩めた。
 ゆったりとした足取りで、生徒の波に流されるように学園へと向かう。
「おっ? 茜、発見!」
 校門近くで見慣れた後ろ姿を発見し、高丸は嬉々と瞳を輝かせた。
「おっはよう、茜!」
 高丸の呼びかけに、少年がギョッとしたように立ち止まる。
 構わずに、高丸は背後からガバッと少年の首に抱きついた。
「やめろ、高丸。鬱陶しい」
 冷ややかな声が少年の唇から放たれ、腕が邪険に振り払われる。
「だだでさえ目立つのに、朝っぱらから不快なことをするな」
「何だよ、ただの挨拶だろ……」
 微弱な言葉を発し、高丸は拗ねたように唇を尖らせた。
「おまえは、デカイ。うるさい。鬱陶しい」
「あっ、オイ、茜!」
 スタスタと歩き始めた少年を高丸は慌てて追った。
 高丸の唯一の弱点。
 それが、隣を歩く少年――榊茜(さかき あかね)だ。
 聖華学園に入学してから三年間、ずっと同じクラス。いつの間にか一緒にいるのが当たり前になっていた。そのせいか、高丸はこの親友に非常に甘かった。
 日本有数の大企業『榊グループ』の次男坊。
 双子の兄である葵がグループを取り仕切っているらしい。表向きには別の人間が会長ということになっているが、実際に一族を束ねているのは葵なのだという。
 桜の季節到来と同時に、多忙を極める葵が学園を休みがちになり、二つ年下の妹である夏生(なつお)がロンドンへ短期留学した。
 以来、茜の機嫌は頗る悪い。
「何、怒ってんだよ?」
「おまえがアホだから」
 返ってくる答えはにべもない。
「徳川と同じこと言うなよ」
「徳川に共感するね、俺は。――ところで朝練は?」
「……寝坊した」
「へえ、珍しい。熱血バレー大先生が朝練をサボるとはね」
 どう考えても嫌味としか取れない茜の言葉に、高丸は押し黙った。直杉といい茜といい、自分の周囲にいるのは口の悪い人間ばかりだ。
「祇園寺先輩、榊先輩、おはようございます!」
 不意に元気な声が横を通過する。顔も名前も知らない女生徒たちが軽やかに駆けていた。
「おうっ!」
「おはよう」
 高丸と茜が挨拶を返すと少女たちは立ち止まり、一斉にこちらを振り向いた。
「ヤッターッ! 朝から先輩たちに逢っちゃった!」
「いや~ん。二人ともカッコイイ!」
 顔を見合わせクスクス笑うと、また駆け出してゆく。
「……あんなもんで喜ぶか?」
 高丸は解せない様子で少女たちの後ろ姿を見送った。
「おまえ、いつもは朝早いからな。登校時に発見できたことが、よほど嬉しかったんだろ」
「ふ~ん。そんなもんなのか?」
 高丸は妙なくすぐったさを覚えて首を傾げた。
 茜が女子に人気があるというのは納得できる。何せ、かなりの美形だ。彼女たちが騒ぐのも無理はない。
 だが、自分に関しては全く理解できなかった。バレー以外に何も取り柄がないというのに、少女たちは嬉しそうに自分に声をかけてくる。実に不思議な現象だ。
 ――あの子も、オレのドコがいいのかねぇ?
 白羽美麗の勝気で真摯な眼差しが、脳裏に鮮明に甦る。
「女って変なの……。オレが女だったら、迷わず茜を選ぶけどなぁ」
「寒い奴。吐き気がするから二度と言うな」
 心底不愉快そうに告げ、茜が高丸を睨む。
「単なる例えだろ」
 高丸は肩を聳やかしながら、目前の巨大な白い門に視線を走らせた。
 いつの間にか、校門前に辿り着いていたらしい。
「――今日もスゴイ数のラブレターだな」
 校門を通り抜けながら、さり気なく茜の片手に視線を落とす。
 彼の手には色とりどりの封筒が携えられている。まるで郵便局員のような有り様だ。茜の手にあるそれら全てが彼宛の恋文なのである。
「毎日貰うと……流石に辟易してくる。読む気にもなれない」
「とか言いつつ、ちゃんと目を通してるんだよな」
 軽く揶揄しながら笑顔で茜の顔を覗き込む。
 途端、茜の顔が不愉快そうにしかめられた。
「一応、俺宛に書いてくれた手紙だからね。でも、中には激しく勘違いしている内容のものがあって困る――」
 憮然とした口調で茜が告げる。
「しーちゃんに触るなっ!!」
 凄まじい怒声が耳をつんざいたのは、その直後の出来事だった。
「おまえ、頭おかしーんじゃねぇの?」
 続いて、聞き覚えのある少年の声が届けられる。
 高丸は無言で茜に目配せした。
 茜の顔には苦笑に近い笑みが閃いている。
 校庭の一部に無数の生徒たちが集結していた。
 渋い緑色の群れが巨大な輪を形成している。
 どうやら、その輪の中心で何か事件が起こっているらしい。
「紀ノ國屋が……!」
「あれ、生徒会長よ……」
 生徒たちの断片的な囁きが嫌でも耳に入ってくる。
 高丸は聞こえてきた囁きにズシリと気が重くなるのを感じた。
 ――あ~あ、朝から嫌な予感。
 それを振り払うように生徒の群れを掻き分け、高丸は輪の中心に飛び出した。



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2009.08.10 / Top↑
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