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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Tue
2009.08.11[08:57]
     *


「紀ノ國屋と和泉田が揉めたそうだな?」
 昼休みに突入するなり、そう切り出してきたのは徳川直杉だった。
「あ? 何だ、見てなかったのかよ?」
 高丸は逆に直杉に問いかけた。
「朝練をしていたのでな」
「誰かさんと違って、徳川は寝坊なんて絶対にしないもんな」
 隣の席から茜が口を挟む。『寝坊』の箇所が妙に強調されて聞こえたのは、高丸の気のせいではないだろう。
「ほう。寝坊したのか。熱血バレーボール馬鹿にしては、珍しいな」
 直杉が皮肉げに唇を歪める。口調にはからかいの粒子が微細に含まれていた。
「ほっとけ! 茜も余計なこと言うな」
 両者を軽く睨め付け、高丸は唇を尖らせた。
「事実だろ」
「ムキになるのはみっともないぞ、祇園寺」
 二人から返ってくる言葉は至極冷たい。
「――で、紀ノ國屋がどーしたって?」
 反論する言葉が見付からずに、高丸は憮然と話題を引き戻した。
「あの二人は、何故揉めたのだ?」
「松本の胸を触ったとか触らないとかで、和泉田が紀ノ國屋に突っかかったんだ」
 興味のなさそうな口振りで茜が答える。
「なるほど。志緒が原因か」
「アイツ、オレにも『高丸く~ん!』なんて飛び付いてきやがってよ。おかげで、オレも和泉田の不興をかった」
 高丸は大きく溜息を吐き出した。志緒のあの癖だけは即刻やめてほしいものだ。
「アレの思考回路がどういう構造になっているのかだけは、私にも解せんな」
「単純だろ。犬だ、犬。しかも、主人以外にも喜んで尻尾を振るバカ犬だ」
「茜……おまえってヒドイ奴だよなぁ」
 高丸は、冷静に志緒の分析を披露する茜を苦々しく見つめた。発言の内容が的を射ているだけに、苦笑いする他はない。
「だが、納得できるな。――それで、その後は何事もなく終わったのか?」
 直杉が一つ頷き、逸れた話題を修正する。
「馨センセが乱入してきて――よく解らんうちに撤収」
「ふむ。ただそれだけのことか。皆が『紀ノ國屋が踊るのを止めた』と言っていたので、もっと大事かと懸念したのだが……」
「そういえば紀ノ國屋の奴、何であれぐらいで踊りを止めたんだ?」
 高丸は朝の出来事を反芻し、眉根を寄せた。
 紀ノ國屋が踊りを止めるのは、彼が本気で怒っている証だ。あの程度の糾弾と罵りで紀ノ國屋が激怒するなんて、腑に落ちない。
「松本のことが好きなんだろ」
 茜がアッサリと結論を導き出す。
「へ? 紀ノ國屋が志緒を好き?」
 思わず茜を凝視してしまう。高丸の中では微塵も繋がらない恋愛相関図だ。
「アイツら『3-Dの大ボケアホアホコンビ』とか言われてんだぜ? あの二人に限って、そんなことはない。なあ、徳川?」
「解答保留――と、いったところだな。紀ノ國屋の思考回路も私には理解不能だ。まあ、和泉田が志緒に対して躍起になるのは解らないでもないが」
 直杉は高丸の言葉をサラリと受け流して、新たな話題に触れた。
「和泉田と志緒? それも全っ然解らん」
「知らないのか? あの二人は幼なじみだ」
「ああ、だから『しーちゃん』と『ゆーくん』なのかっ!」
 高丸は、それがとても素晴らしい発見だというように目を輝かせた。
 確かに、二人はお互いのことを親密に呼び合っていた。あれは、付き合いの長さが成せる業だったのだ。
「そうだ。しかも、幼なじみに加えて――」
「榊先輩っ!」
 不意に、直杉の言葉を高い声が遮った。
 話の腰を折られたことに怪訝そうに眉根を寄せ、直杉が声の発生源に視線を馳せる。
 釣られるように高丸も直杉の視線の先を追った。
 瞬時、思いきり顔を強張らせる。
 すぐ間近に、白羽美麗の姿があった。



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