ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「サイコプラズマを使ったのか?」
 入室するなり茜は柳眉を顰め、胡乱げに高丸を見上げてきた。
 室内に漂う冷気を敏感に感じ取ったらしい。
「そんなことより、今まで何処に行ってたんだよっ? 心配したんだぞ!」
 高丸は素早く茜に駆け寄り、矢継ぎ早に質問を捲し立てた。
「そうですよ。榊先輩の姿がないせいで、あたし、祇園寺先輩に疑われたんですからね」
 美麗が不満たっぷりの口調で茜に告げる。
 それだけで状況を把握したらしく、茜は疲れたように溜息を吐き出した。
「それでサイコプラズマを使ったのか……。その子は関係ない。俺は……体調を崩して保健室に行ってただけだ。保健医の西野先生と徳川にもそう伝えたはずたけど――何も聞かなかったのか?」
「あっ、そういえば、何か話があるとか言ってたな。それのことだったのかよ」
 教室を飛び出した直後、直杉に呼び止められた記憶が甦ってくる。あまりに急いでいたので、ぞんざいに無視してしまったのだ。こんなことなら、ちゃんと直杉の話に耳を傾けていればよかった。今更ながら後悔する。
 だが、その後悔も長くは続かなかった。『体調を崩して』という茜の言葉が、新たな不安を呼び起こしたのだ。
「オイ、こんな時間まで保健室で休んでるなんて、風邪か? 熱か? それとも貧血か? 起きてて平気なのか?」
 高丸は血相を変えて茜の肩を掴み、その顔を覗き込んだ。
 瞬く間に、茜の顔が不愉快そうに翳る。
「大したことじゃない。ちょっと――」
 言いかけて、茜は珍しく口ごもった。何か訴えたそうな視線が美麗に注がれる。
 途端、美麗は『あっ』と小さな声をあげた。それから強張った表情で茜を見返すのだ。
「も、もしかして、あたしの作ったお弁当のせい……ですか?」
 美麗の問いかけに、茜が頷く。
 ようやく高丸にも事態が推測できた。茜は美麗の作った弁当にあたり、腹を壊しでもしたのだろう。それで保健室に逃げ込み、こんな時間になるまで戻ってこられなかったに違いない……。
「ごめんなさい! あたし、下剤を入れたとか、そういうあくどいことはしてませんよ! ただ、あまり料理は得意じゃないので……」
 言い訳のように言葉を連ね、美麗は赤面した。己の料理の腕に激しい羞恥を感じているのだろう。
「本当にすみません、榊先輩! あたし、失礼しますね!」
 茜に頭を下げてから、美麗は高丸の腕を強引に掴み、背伸びをして耳に唇を寄せた。
「榊先輩が無事で良かったですね。あのことは――直接、榊先輩に訊いて下さい」
 高丸にしか聞こえない小声で囁き、美麗はパッと離れた。パタパタと逃げるように走り出す。そうかと思うと、急にドアの前でクルリと身を反転させるのだ。
「あたし、あの《力》のことは誰にも言いませんから。ちなみに、祇園寺先輩のことを諦める気もありません! それから……」
 大声で叫んだ後、美麗はふと表情を曇らせ、声をひそめた。
「二人とも気をつけて下さいね――」
 神妙な声音で告げ、美麗は教室を飛び出して行く。
「あっ、オイ! ……ったく、何に『気をつけろ』って言うんだよ?」
 憮然と呟く。『気をつけろ』と言われても、思い当たる節は全くない。強いて言えば、美麗自身に、だろうか? 高丸に対する彼女の恋心は未だ燻っているらしい。先ほどの言葉からも彼女の熱意が窺える。これからも美麗の執拗なアプローチは続くのだろう。
「――あの窓、ちゃんと直しとけよ」
 机に移動し、中を手で探りながら茜が冷たい眼差しを高丸に注いでくる。その双眸は、人前で無闇やたらと超能力を使うな、と告げていた。
 美麗の言う通り、高丸には特殊な能力がある。
 常識を超えた能力が『超能力』と言うのならば、高丸の持つ《力》も超能力に違いないのだろう。
 だから昨日、篠田学園長がそれを訊いてきた時、ひどく焦ったのだ。
 高丸には、幼い頃から物体を冷却・発火できる不可思議な能力が備わっていた。
 何故、自分に未知の力が備わっているのかは、高丸自身にも解らない。ただ、長年の経験から『これは人前で駆使してはいけない力なのだ』ということは身に染みている。《力》に感激する者もいれば、畏怖し、蔑む者もいる。時には、それを悪事に利用しようと目論む者もいる。とにかく、身に宿った《力》が人々の好奇の対象となることだけは、嫌と言うほど理解していた。だから、《力》を使うことも、その話さえすることも滅多にない。
 特殊能力を発揮する時にだけ、体内に電流のようなものが走り、全身が放電したように輝く。それに準えて、口外する時には他人に超能力だと悟られないように、《サイコプラズマ》という造語を用いていた。
「あまり怒りを爆発させないように、努力はする」
 自己の軽率さを呪うように高丸は悄然と呟き、項垂れた。
「是非、そうしてほしいね」
 唇の端を吊り上げて笑い、茜は机の中の物を取り出し始める。
 そんな茜を見つめながら、高丸は美麗の言った『茜の秘密』について考えを巡らせていた。美麗は直接本人に訊けと言ったが、問い詰めることは躊躇われた。
 茜はサイコプラズマの存在を笑い飛ばしもせず、怖れもせず、真剣に受け止めてくれた数少ない人物だ。己の最大の秘密を高丸は茜に打ち明けている。だから、茜にも自らの意志で秘密を告白してほしい。いずれ、時がくれば茜はきっと自分に打ち明けてくれるだろう。
「……またコイツか!」
 不意に、茜が軽く舌打ちを鳴らす。
 その視線の先には彼宛に送られてきたラブレターの山――そして一通のピンク色の封筒がある。
「また、なのか?」
 そのピンクの封筒を見るなり、高丸は険しく眉根を寄せた。
「見なくても解る。開けてみるか、高丸」
 手紙の山の中からそれを取り上げ、茜はヒラヒラと高丸に振ってみせるのだ。
 高丸は茜の手からそれを受け取った。他人宛の手紙を開けるのは気が引けるが、意を決して封を開ける。
 このピンク色の封筒には、茜本人のみならず高丸にも嫌と言うほど見覚えがある。
 ここ一ヶ月、毎日送られてくる茜へのラブレターだ。差出人は不明。
 差出人不明の恋文が毎日手許に届き、しかも内容が毎回同じとくれば、茜でなくとも薄気味悪さを感じるだろう。
 高丸は静かに封筒の中から同じ色をした便箋を取り出した。やけに分厚い。これまでの経験から、それが全部で二十枚あることを高丸は知っていた。
 四つに折り畳まれた厚い便箋をゆっくりと開く。
 広げた瞬間、微かに花の薫りが漂った。
『榊茜様』と赤い文字で記された、いつもの出だしが真っ先に目に付く。
 後に続く文も、いつもと同じ内容だ。
 二十枚全て目を通さなくても解る。
 何故なら、二十枚全てに同じ一つの言葉だけが延々と書き綴られているのだ。


『榊茜様
 
 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き――』


 紙面に目を落とした瞬間、高丸は眩暈を感じた――



     「BREAK.1」へ続く



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2009.08.13 / Top↑
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