ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 新しい建物特有の、コンクリートと木材の混ざったような不思議な匂いがする。
 鼻腔を掠める微かな匂いに、紀ノ國屋健治は意識を取り戻した。
 身体が異様に怠いし、頭が重い。
 拉致される時に、何か薬物を嗅がされたのかもしれない。
 ぼんやりとそんなことを思いながら、気力を振り絞って瞼を上げる。
 明瞭ではない視界――狭く、薄暗い室内の様子が朧に見えた。
 窓のない部屋に、小さなランプが置かれている。その周囲に屈強の男が三人、談笑しながら座っていた。男の中の一人が自分を殴った犯人だと知り、紀ノ國屋は眉根を寄せた。
 どうやら、自分はここに監禁されているらしい。あのガラの悪そうな男たちは見張り役なのだろう。
 ――何処だ、ここ……?
 考えようとするとひどく頭が痛み、紀ノ國屋は更に顔をしかめた。
 身体は鉛を埋め込まれたように重く、怠い。吐き気もする。
 込み上げてくる嘔吐感を堪えるように、紀ノ國屋は歯を食いしばった。
「お目覚めですか、紀ノ國屋先輩」
 ふと、不鮮明な視界にスッと影が現れる。
 紀ノ國屋は緩慢な動作で顔を上げた。
「おまえ……生徒会……の……」
 自分の唇から飛び出した途切れ途切れの声に、紀ノ國屋は苛立ちともどかしさを感じた。それだけ言うのが精一杯だったのだ。喋ると異常に息苦しい。
「苦しいですか? でも、我慢して下さいね」
 生徒会会計――有原樹生が、薄笑みを浮かべながら顔を覗き込んでくる。
 ――コイツが首謀者か……!
 その横面を張り飛ばしてやりたい衝動に駆られ、紀ノ國屋は手を振り上げようとした。だが、手がいうことを利かない。そこで初めて、上半身が拘束されている事実に気がついた。
 今、自分は椅子に座らされている。両手は椅子の背に回され、手首をロープできつく縛り付けられている。その上、胴体もロープで椅子の背に括りつけられているのだ。
 忌々しげに樹生を睨み据える。
 猛烈な怒りを感じた。
「そんな怖い顔しないで下さい。ボク、個人的には先輩に恨みなんかないんですよ」
 樹生の片手が紀ノ國屋の顎を掴み、上向かせる。
「どちらかと言えば、松本先輩の方が憎いんですけれど……。とにかく和泉田先輩があなたのことを快く思っていないので、あなたを排除するために荒っぽい手段に出たというわけです。悪く思わないで下さいね」
 ニッコリ微笑みながら、樹生が残る一方の手を紀ノ國屋の前に翳す。
 透明なグラスの中で、緑色の綺麗な液体が不吉に揺らめいた。
「和泉田のためなら……何でもするのかよ?」
「ええ。ボクは、この世で一番の和泉田先輩の信奉者ですから。誰よりも和泉田先輩を尊敬し、崇拝してるんですよ。だから、和泉田先輩が望むことなら、どんなことでもします」
 涼やかに告げる樹生を、紀ノ國屋は不気味なものを見る眼差しで見つめた。
 ――異常だ。
 樹生の行動心理が全く解せない。
「妙な《力》を使われては困るので、先輩には眠ってもらいますね。――コレ、何か解るでしょう? アルコールのことなら先輩の方が専門家ですからね」
 微笑を崩さずに、樹生が掴んだ顎をグイッと引き上げる。
 樹生の言葉に、紀ノ國屋は虚を衝かれたように緑色の液体を凝視した。
 ――アブサンだ。
 アルコール度数七〇%の強烈な蒸留酒だ。
 あんなものを湯水のように浴びせられたら、たちまち酩酊し、バッドトリップしてしまうだろう。
「和泉田先輩が来るまで眠っていて下さい」
 樹生がアブサンの入ったグラスを傾ける。
 紀ノ國屋が決して呑むまいと堅く唇を閉ざしていると、樹生の指が容赦なく鼻を摘んだ。
 一分も経たないうちに、酸素を求めて唇が開く。その隙を狙ったようにグラスが唇に押し付けられ、中の液体が口内に流れ込んできた。液体が食道を通過し、胃に達する。
 喉と胃が灼けるように熱い。
 意識が朦朧とする。
 ――意識が覚醒してさえいれば《力》が使えるのに……。
 溜飲した液体を吐き戻したい。
 だが、それさえも赦さぬ迅速さで二杯目のアブサンが襲い来る。
 ――《力》を駆使できれば、こんな奴ら簡単にブチのめせるのに……!
 痛切に思うのだが、紀ノ國屋の意識は既に現を離れ、夢の世界を浮遊し始めていた。
 体内を灼く熱が増加するにしたがい、意識が低迷してくる。
 ふと、胸の辺りに振動を感じた。
 携帯電話が着信を伝えてる。
 ――志緒だ……。
 そう感じた瞬間、紀ノ國屋の意識は弾けるようにして途絶えた――


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2009.08.14 / Top↑
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