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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Mon
2009.06.01[00:06]
 旧校舎の教室は全て、生物室・調理室・音楽室・視聴覚室などの特別室で埋められている。
 新校舎増築後、こちらの校舎は特別教室のためだけに使用されているのだ。
 水の妖かしは手招きしながら南階段を這い上がり、水柯たちを四階へと導いた。
 水妖には明確な目的地があるらしく、前進には全く躊躇いが見受けられない。
 水妖の動きが止まったのは、長い廊下のほぼ中央――美術室の前だった。
「美術室……?」
 教室のプレートを見上げ、水柯は首を傾げた。
 水妖が美術室に何の用があるのか皆目見当もつかなかったのだ。
 もっとも他の特別教室でも同じ疑問が生じるのだが……。
 水妖は水柯の声には応じずに、揺れる手を引っ込めた。
 そのまま自由自在に変化できる水の利点を活かして、床とドアの隙間からスルスルと美術室に侵入してしまう。
「オイ、俺たちは――」
 どうすればいいんだ、と充が口にする前に、ドアは自動的に開かれた。
「げっ、ポルターガイストってヤツかよ」
 独りでに開いたドアを目の当たりにして、充が目を剥く。
 固まってしまった充の影から、水柯は美術室を覗き込んだ。
 しとしとと降り注ぐ雨の音が、室内から流れてくる。
 窓が開いているらしく、冷たく陰湿な風が廊下にも吹きつけてきた。
「入って来い、ってことよね」
 水柯は開け放たれたドアに胡散臭げな視線を投げた。
「そのようだな」
 直杉が先陣を切って美術室の中へと足を踏み入れる。
 水柯たちも後に続いた。
 室内は仄暗く、森閑としている。
 絵の具独特の臭いが充満していた。
 闇の中にぼんやりと浮かび上がるのは、イーゼルやカンバスなどの画材だけだ。
 水妖の姿は見当たらない。
「あいつ、どこに消えたんだ?」
 室内を見回して、樹里が不満げに呟く。
「さあな。いない方が有り難いけど」
 充が気楽な口調で相槌を打ち、窓際へと歩を進めた。
 開いている窓から顔を出し、『へえ』と小さな感嘆の声をあげる。
「美術室って、噴水の真上に在るんだな」
「それは新発見だわ」
 水柯は興味を引かれて充の隣に駆け寄った。
 聖華学園に進学して一年半、そんな事柄に着目したことは一度もなかった。
 水柯は充に倣って窓の外を覗いてみた。
 水こそ噴き上げていないが、確かに視点のほぼ直下に噴水が存在していた。
「水妖は噴水から出現するという。あそこから飛び出し、この窓から校内へ侵入したのだな。しかし何故、四階の美術室なのだ?」
 直杉が思案するように首を捻る。
 噴水に近いという理由ならば、四階ではなく一階が最も適している。
 敢えて美術室を選んだ水妖の意図が解せなかった。
「僕たちの知ったことじゃないよ」
 樹里の苛立ちを孕んだ声が、直杉の疑問を打ち消す。
「ねえ、水妖はどこに行ったの? いないのなら、この隙に――」
 ――逃げちゃおう。
 そう提案しかけて、水柯はハッと口を噤んだ。
 突如として、自分たち以外の気配を感じたのだ。



 
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