ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 朝の家庭科室には奇妙な沈黙が流れていた。
 松本志緒は、不安な気持ちを隠しもせずに沈痛な面持ちで室内に集まった人間たちの顔を見回した。皆、一様に芳しくない表情を湛えている。
「――なるほどな。それで志緒は、紀ノ國屋が和泉田に拉致されたのではないか、と推測したわけだな」
 静寂を打ち破るようにして凛然とした言葉を発したのは、徳川直杉だ。
 家庭科室には志緒と直杉の他に、祇園寺高丸、榊茜、黒井馨の姿もある。
 志緒は、一昨日からの今朝までの顛末をしどろもどろに打ち明け終えたばかりだった。
 日頃口には出さないが、志緒はこの四人には絶対的な信頼を寄せている。
 茜は別だが、他の三人、そして紀ノ國屋健治にも自分と同じような特殊能力《サイコプラズマ》が備わっているのだ。気がつくと、いつの間にか皆で集まることが習慣になっていた。そして、比較的利用頻度の低い家庭科室が、彼らの集合場所に自然と選ばれるようになったのである。
「松本の精神感応力で、紀ノ國屋の居場所を突き止められないのか?」
 茜の問いかけに志緒は表情を曇らせ、ふるふると首を横に振った。
「志緒の元々のサイコプラズマは、テレパシーじゃないもん……。これは最近できるようになったの。だから、微弱な心の声は志緒には聞こえないの~」
「オレの熱コントロールも人捜しには全く意味ないしな」
「私の力も役に立ちそうもない」
 高丸が肩を竦め、直杉が唇を堅く引き結ぶ。
「無論、僕の力もだね」
 馨も浮かない表情で溜息を洩らす。
「超能力って、時と場合によっては全然役に立たないんだな」
 茜が率直な感想を述べる。聞きようによっては完全な嫌味だが、誰も反論を述べる者はいなかった。茜の言葉は正鵠を射ているのだ。
「全くその通りだとも、榊君。我々の能力は時として無力なのだよ!」
 馨が如何にも嘆かわしげな表情を造る。相変わらずの演技ぶった口調だ。
「じゃあ、健治くん捜しは地道にやらなきゃダメなのね……」
 志緒は大きく溜息を吐き出した。
 サイコプラズマを秘めた仲間なら紀ノ國屋捜しも順調にいくだろうと思ったのは、安直すぎる考えだったらしい。人間捜索に適した能力がないのなら元も子もない。
「まあ、紀ノ國屋グループが動くんなら、すぐに見つかると思うけどな」
 高丸が楽観的な口調で言うと、直杉が双眸を鋭利に輝かせた。
「だが、それは紀ノ國屋が誘拐なり拉致されたという確実な証拠だ。あまり軽視できぬのではないか」
「ゆーくんが健治くんにそんなに酷いことをするとは思いたくないけど……」
「和泉田が犯人だと決めつけるのは早計じゃないのか?」
 茜が渋面で志緒を見つめてくる。
「でも、ゆーくん以外に怪しい人、思い当たらないんだも~ん」
「オレも和泉田が怪しいと思うな。一昨日の朝、校庭で派手にケンカしてたし」
 高丸が志緒に賛同する。
「最近の生徒会はどうも様子が変だな」
 直杉の整った顔に揶揄するような薄笑みが具現される。
「つい先日、副会長の白羽美麗が祇園寺に色仕掛けをした。そうかと思えば、今度は和泉田が紀ノ國屋誘拐の容疑者だ」
「オイ、色仕掛けってなぁ……。あれは個人的な問題だろ。生徒会は関係ない」
 高丸が苦笑混じりに言葉を繰り出す。
「無関係とは断定できぬだろう。もしかすると生徒会執行部の陰謀かもしれぬ」
「それは考え過ぎじゃなぁい、ナオちゃん?」
 志緒は不思議そうに直杉を見上げた。
「そうだとも。生徒会執行部に目をつけられる理由は、祇園寺君にも紀ノ國屋君にもないのではないかな」
 馨が口を挟んだ直後、予鈴が鳴り響いた。
「まあ、とりあえず、紀ノ國屋君に関する情報が入り次第、必ず松本君に報告すること。そそれでいいかな、諸君」
 馨が確認するようにゆっくりと一同に首を巡らす。
 皆が無言で頷くのを見届けてから、馨は爽やかな笑顔を浮かべた。
「では、解散。諸君らは勉学に勤しみたまえ!」


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2009.08.17 / Top↑
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