ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 放課後を迎えた直後、松本志緒は脱兎の如く教室を飛び出した。
 いつもは愛くるしい笑みを湛えているはずの顔は、緊張と焦燥に強張っている。
 これから、志緒は一人、有原樹生の待つ生徒会室へ赴くのだ。
 逸る心を抑えきれずに志緒は廊下を疾駆し、二階にある生徒会室に直行した。
 昼休みに意味深な言葉を投げられて以来、色々と悩んだ。
 樹生が怪しいことを高丸たちに相談しようか何度も迷ったが、結局告げられずに終わった。
 言えば、高丸たちは志緒の身を案じて一緒についてくるだろう。そうなると樹生が紀ノ國屋の居場所を教えてくれない可能性がある。
 彼は『一人で来い』と言ったのだ。
 不安や畏れはあるが、やはり一人で立ち向かうのが最善策だという結論に達したのだ。
 志緒は一度深呼吸してから、生徒会室のドアに手を伸ばした。
 施錠されている様子はなく、ドアは軽い。
「健治くんは志緒が助けるんだもん」
 己に言い聞かせるように声に出して呟き、志緒は一気にドアを開いた。
 ザッと室内を見回すが、樹生の姿は見当たらない。
「あれ? 早く来すぎちゃった――」
「早いですね、松本先輩」
 当惑に首を傾げた途端、背後に人の気配を感じた。
 驚いて振り返った瞬間、樹生の意地の悪い笑顔に出会した。
「ボクにとっては好都合ですけど」
 ニッコリと樹生が微笑む。
 同時に彼の手が勢いよく志緒の背中を突き飛ばした。
「きゃっ!」
 小さく悲鳴をあげ、志緒は床に転倒した。
 背後から聞こええるガチャガチャという音が聴覚を鋭く刺激する。
 ――鍵をかけられた!?
 緊張に意識が引き締まる。
「ちょっと、樹生くっ――!」
 非難の眼差しで樹生を振り仰ぐ。
 再び、志緒は驚愕に見舞われた。
 見開いた視野の中で、樹生が残忍な微笑を浮かべている。
 彼の片手が乱暴に志緒の身体を床に押し倒し、残る一方の手が迅速に口を塞いだ。逃れようと藻掻く志緒を抑え込むようにして、樹生が胴の辺りにのしかかってくる。
 口許を覆っていた手が離れ、志緒の両手首を器用に捻り上げた。
「な、な、なにっ……!?」
 喉の奥から掠れた声が洩れる。
 あまりの出来事に咄嗟に対応策が思い浮かばず、志緒は焦った。
 自分の身が危険に曝されていることは理解できる。しかし、頭では『逃げなきゃ!』と思うのだが、身体は意に反して動かない。恐怖のためにガタガタと小刻みに震えるだけで、役に立ちそうもなかった。
「ボクは、松本先輩が大嫌いなんですよ」
 冷ややかな声音で言い放ち、樹生が片手で志緒の顎を掴む。
 憎しみの籠もった双眸が、苛烈に志緒を射抜く。
 憚ることなく浴びせられた敵意に、志緒の全身は硬直した。陥った危地に冷や汗が滲む。
 樹生の全身からは禍々しい負のエネルギーが放出されている。殺気混じりの憎悪だ。
「そう。ボクはずっと、昔から松本先輩のことが嫌いだった。常に和泉田先輩を惹きつける存在である、貴女が目障りで仕方なかった」
 昏く澱んだ眼差しが志緒に注がれる。
 転瞬、トントンとドアがノックされた。
「樹生? いるんでしょう、樹生?」
 樹生の双眸が鋭利な光を宿し、片手が素早く志緒の口を塞ぐ。彼は首だけを捻じ曲げてドアを見遣った。
「誰もいないの? 樹生? 毛利先輩?」
 トン、トン……トントントン!
 強い調子でドアがノックされる。
 ――助けて!
 胸中で志緒は叫んだ。
 生徒会室のドアに填め窓はない。相手が誰だか解らないが、今、ドアの向こう側に何者かが立っているのは紛れもない事実だ。その人物にどうにかして自分の危地と苦境を知らせたかった。だが口を塞がれているために声はくぐもり、廊下までは届かない。
 ――助けて!
 声にはならない声で、懸命に叫ぶ。
 しかし、志緒の僅かな望みはすぐに断ち切られた。急にノックの音が途絶え、ドアの向こう側から人の気配が消えてしまったのだ。
「残念でしたね。助けは来ませんよ。これで、ゆっくりと貴女をいたぶれる」
 樹生がゆっくりと視線を志緒へと戻した。
 志緒に向けられた顔には、邪悪な笑みが刻印されている。ゾッとするほど毒々しい微笑に、志緒は再度言葉を失った。全身を戦慄が駆け抜け、顔が恐怖に引きつる。
「貴女は邪魔なんです。だから、和泉田先輩の前から消えて下さい――」
 樹生の指が唇を滑り落ち、喉元に添えられる。
 双眼が憎々しげに輝いた瞬間、五本の指が強く肌に食い込んできた。
 喉が締め付けられる痛みに志緒は顔を歪めた。
 直ぐ様、呼吸が困難になり、視界が霞む。
 ――殺される!
 痛切にそう感じた途端、自衛本能が働いた。
 ――助けてっ……!!
 胸中で最大限の悲鳴を発し、志緒は意識を手放した……。


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2009.08.19 / Top↑
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