ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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『助けて!』
 ドクンッ、と心臓が跳ね上がった。
 祇園寺高丸は思わず足を止め、周囲をキョロキョロと窺った。
 今、誰かが強く自分に訴えかけたような気がしたのだ。
 だが、視界に入ってくるのは、いつもの見慣れたバレー部の練習風景だ。
 ユニフォームの胸の辺りを手で掴み、高丸は眉間に皺を寄せた。
 誰も今の声に気づいた者はいないようだ。だとすれば、声は高丸にしか聞こえなかったということになる。それも普通の声ではない。直接脳に響いてくるような奇異なもの――テレパシーだ。
 実現可能なサイコプラズマを持つ仲間は限られる。
 ――志緒……か?
 ハッと目を瞠る。
 思い当たる人物は、松本志緒しかない。
 高丸はますます表情を曇らせた。普段の志緒からは想像もできないほど切羽詰まった声だった。志緒の身に何か変事が起こっている可能性がある。
「ったく、何処にいんだよ?」
 ボソッと呟きながら近くにいたマネージャーにボールを渡し、額の汗を手で拭う。
「祇園寺先輩……!」
 ふと、控え目に自分を呼ぶ声を認識した。
 体育館の入口から誰かが顔を覗かせている。
 顎の線で綺麗に揃えられたボブには見覚えがある――白羽美麗だ。
 美麗は、落ち着きのない眼差しを周囲に配りながら手招きをしている。
「スミマセーン! トイレ行ってきまーす!」
 ――今日はよく部活を邪魔される日だ。
 半ば辟易しながらも、高丸はさり気ない態度を装ってコートを後にした。



「――で、オレに何か用?」
 廊下の隅で、高丸は美麗と対峙していた。
 人を呼び出しておきながら美麗は中々口を開かない。
 長時間部活を抜けるわけにはいかないので、高丸は痺れを切らせ、自ら話を切り出したのである。
「あっ……ごめんなさい。ちょっと気が動転していて……。本当はもっと早く祇園寺先輩を呼び出せたら良かったんですけど、とてもそんな雰囲気じゃなかったので」
 美麗が慌てたように顔を上げる。ようやく焦点が高丸だけに絞られた。
「とりあえず、オレ、こうして出てきたわけだし、早く用件を言ってくれないかな?」
 先刻の志緒の思念が気になり、高丸は急かすように尋ねた。少々冷たい物言いになってしまったが、仕方ないだろう。
「あの、あたし、さっき生徒会室に立ち寄ろうとして、樹生と松本先輩を見たんです」
「は? 志緒と有原?」
「そうです。二人で中に入っていったから、どうしたのかと思って……。で、あたしが生徒会室のドアを開けようとしたら――開かなかったんです。あたし、何度もノックしたんですけど、樹生も松本先輩も中にいるはずなのに何も応えてくれなくて……。物音一つしないんですよ。何か変だと思いません?」
 美麗は芳しくない表情を湛え、唇を噛む。
「確かに変だな。それに、そんなに思い詰めた顔してるってことは、アンタには何か思い当たる節があるんだろ? 有原が志緒に危害を加えるような理由とか」
 高丸が指摘すると美麗は小さく息を呑んだ。
 痛いところを突かれたように顔を歪め、やがて小さく頷く。
「でも、あたし――その理由については口外できません。言ったら、あたし……」
「ああ、言い難いんだったら言わなくていい。志緒の居場所が解っただけでも大収穫だからな。教えてくれてアリガトな、美麗」
 困った表情で俯く美麗の肩を軽くポンと叩く。
 瞬時、物凄い速度で美麗が高丸を仰ぎ見た。その頬が興奮したように紅潮している。
「今、名前で呼んでくれましたね!」
「あー、いや……弾みで……」
 美麗の双眸がキラキラ輝くのを見て、高丸は苦笑いを浮かべた。
「とにかく、サンキュー! オレ、行くわ」
「待って下さい、祇園寺先輩」
 慌てて身を翻した高丸の背に美麗の声が飛んでくる。
 振り返った高丸に、美麗が何かをスッと差し出した。手紙のようなものだ。
「ラ、ラブレター!?」
 茜宛の不気味なラブレターのことが念頭にこびり付いているせいで、咄嗟に出た言葉はそんな間抜けなものだった。
「……ち、違います! 樹生の実家、有原建設といって都内にたくさんの自社ビルを持ってるんです。最近、西新宿に新しいビルが完成したそうですよ」
「――はい?」
 高丸は怪訝な眼差しを美麗に注いだ。
 樹生の実家のことなど聞いても、何の役にも立ちはしない。
「早く生徒会室に行って下さい。松本先輩、大変なことになってるかもしれませんよ」
 深刻な口調で告げながら、美麗は高丸の片手に折り畳んだ紙片を強引に握らせるのだ。
「あ、ああ」
 手渡された視線に疑わしげな一瞥を与えてから、高丸は今度こそ背を返した。
 訳も解らぬまま生徒会室を目指し、駆け出す。そうしながら受け取った紙片を開き、中身を確認した。
 開いた紙片には、西新宿の簡素な地図が描かれ『第五有原ビル』と記された箇所に大きく赤丸が付けられていた。
 ――何だ、この地図?
 美麗の真意が掴めずに、高丸は思いっ切り眉根を寄せた。
「紀ノ國屋先輩、早く見付かるといいですね!」
 走り続ける高丸の耳に美麗の叫びが届く。
 刹那、高丸は悟った。美麗がくれた地図は、紀ノ國屋の居場所を示すものに違いない。
「マジでサンキューな! 今度、メシでも食おうぜ!」
 高丸は走りながら背後を顧み、勢いよく片手を振った。
 美麗は志緒の危機を知らせてくれたどころか、紀ノ國屋の所在まで教えてくれたのだ。
 中々侮れない少女だが、今は素直に感謝の気持ちが芽生えてきた。


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2009.08.19 / Top↑
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