ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑


 バタバタバタッと複数の足音が響き渡る。
 訓練された力強い足音に、室内の空気の流れが止まった。
 誰もが動きを停止させ、声のした方角を注目する。
「そこまでだ。この場は紀ノ國屋グループが押さえた」
 静かに言葉を繰り返し、黒ずくめの青年が悠然と室内に足を踏み入れる。その後に、同じような服装の男たちが数人続いた。
「あっ、今井さ~ん!」
 その姿を見た瞬間、志緒はパッと顔を輝かせ、嬉しさに笑みを浮かべた。
 現れたのは、紀ノ國屋のボディガード――今井とその部下たちだったのだ。
「ま、松本のお嬢……!? ――っと、ご無事ですか、ぼっちゃんっ!」
 今井は分裂した志緒を見て一瞬ギョッとしたように目を剥いたが、傍に敬愛する主人を見出して直ぐ様表情を引き締めた。
「おうっ。遅いぞ、今井」
 紀ノ國屋が今井に向かって唇を尖らせる。
 馨の治癒により、彼はいつもの勢いを取り戻したようだった。清々した表情で身を起こし、志緒の傍に歩み寄ってくる。何処にも怪我らしきものは見当たらなかった。
「私を撒こうなどと考えるから、こんな羽目に陥るのですよ」
「うるせーよ!」
 紀ノ國屋が今井の小言に肩を聳やかす。
 今井は一つ咳払いをしてから、改めて悠南たちに視線を戻した。
「これ以上、うちのぼっちゃんと松本のお嬢に危害を加えたら、警察に通報します。その場合、紀ノ國屋グループとしては訴訟を起こすつもりですので、心しておいて下さい」
 鋭い眼光を湛えた眼差しで、今井が悠南たちを睨めつける。
 紀ノ國屋グループの名を出されたせいか、悠南たちを護る男どもは戦意を削がれたように悄然としていた。天下の紀ノ國屋グループを敵に回してしまうかもしれない事実に、怖れ戦いているのだろう。
「それでいいですね、ぼっちゃん?」
「べっつにいいけどさ。オレ、散々痛めつけられて、結構頭にきてんだよな。コイツら、オレの貴重なダンスタイムを二日も奪ったんだぜ。恐ろしいことに丸二日も踊ってないんだぜ、オレ。それだけは、絶対に赦せねー!」
 紀ノ國屋は不敵な笑みを浮かべる。
 そうかと思うと、急に床を蹴り、疾駆を開始したのだ。
 驚愕に目を瞠る悠南と樹生に向け、紀ノ國屋は拳を突き出した。
「紀ノ國屋健治怒りの鉄拳を喰らいやがれっ!」
 悠南の左頬に、紀ノ國屋の拳骨が炸裂する。
 間髪入れず、紀ノ國屋は体勢を立て直して怯える樹生の脇腹に肘鉄を食らわせた。
 悠南と樹生が数メートルも吹き飛ばされ、床に倒れ伏す。
 苦悶の呻きを発して、二人は微動だにしなくなった。
「これくらいで済んだだけでも、感謝してもらわなきゃな。あー、清々したぜ!」
 紀ノ國屋は満面の笑みを浮かべながら志緒の傍へ戻ってきた。
「健治くん、かっこいい~!」
 得意顔で笑う紀ノ國屋を見つめながら、志緒ははしゃいだ口調で告げた。既に分身は解除している。ゆえに性格も元通りマイペースで鈍いものへと戻っていた。
「一件落着ということろかな。僕の華麗な技を披露する場面が少なかったのが、ほんの少し残念だけれどね……」
 パチパチパチと拍手をしながら、馨が志緒たちの傍に移動してくる。
「しかし、本当に警察に通報しなくていいのかな、諸君? これは立派な拉致監禁、殺人未遂事件だよ」
「届けなくてもいいだろ。オレたちもサイコプラズマのこと事細かに警察に説明するのもうざったいし。どうせ言ったって信じてもらえなんだからさ。なあ、志緒?」
「うん。志緒、考えて喋る苦手だし、面倒臭いの嫌いだも~ん」
 紀ノ國屋に同意を求められ、志緒は従順に頷いた。
 志緒にとっては、紀ノ國屋が無事戻ってきてくれればそれでいいのだ。事件は終結したも同然だ。それに紀ノ國屋の言う通り、サイコプラズマのことを説明しなければならないのは、七面倒くさいことこの上ない。
「と、ゆーことで、決まり。あとは親父と和泉田の親父が勝手に裏で話つけるだろ。――んじゃ、さっさと帰ろうぜ。あー、その前に映画観て、メシ喰う約束してたっけ? じゃ、とりあえず渋谷だな。それから家まで送ってやるから、早く行くぞ、志緒」
 楽観的に結論を述べて、紀ノ國屋はスタスタと歩き始めるのだ。最早、悠南や樹生には一片の興味も抱いてはいないらしい。
「あっ、待ってよ、健治く~ん!」
 志緒は慌てて紀ノ國屋の後を追った。
 志緒の呼びかけに、紀ノ國屋が足を止めて振り返る。
 その隙を見逃さずに、志緒は軽快に床を蹴った。
「健治くん、お帰りなさ~い!」
 勢いよく紀ノ國屋に飛び付き、素早く彼の首に両手を回す。
「わっ! 何だよ!? 離れろよ、バカ志緒!」
 驚きに目を丸めて怯む紀ノ國屋を歯牙にもかけず、志緒はニッコリと微笑んだ。
「志緒ね、健治くんのこと大好き~!」
 慌てる紀ノ國屋の頬に、志緒は最大限の愛情をこめてキスをした――


     「BREAK3」へ続く



 にほんブログ村 小説ブログへ  
← NEXT
→ BACK

ブログパーツ
スポンサーサイト
2009.08.20 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。