ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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LIST4 NAOSUGI TOKUGAWA




「ハァァァッッッ!」
「ヤァァッッ!」
 聖華学園初等部の裏庭に、気合いの籠もった叫びが響き渡った。
 裂帛声が長く尾を引いて消えて瞬間、徳川直杉は己の勝利を確認し、毛利さゆみは己の敗北を悟った。
「……やはり徳川には適わないな」
 さゆみは真っ二つに折れた木刀に視線を据えたまま、苦々しく呟いた。
「そんなことはない。踏み込むのが一歩遅ければ、私の負けだった」
 直杉は率直な見解を述べた。直杉の視線の先には、さゆみの攻撃により弾け飛び、地面に転がった木刀がある。
「気休めはやめてくれないか。わたしと君の力量には明かな差がある。その証拠に、わたしは今まで君に勝ったことはない」
 さゆみが溜息混じりに言葉を紡ぎ、疲れたように芝生の上に座り込む。
「悲観的というか時折マイナス思考になるのが、毛利の欠点だな」
 地面から木刀を拾い上げ、直杉はさゆみの隣に静かに腰を下ろした。
「物事を率直に口に出すのが、徳川の欠点だ」
「そうかもしれぬな」
 軽く首肯し、直杉は微笑を湛えた。
 直杉とさゆみは、初等部の剣道部に属している。よき好敵手であり友人だ。
 互いに武家の血を引く旧家に生まれ、その嫡子として次期当主の座を約束されている――いや、その責務を強引に押し付けられている。
 直杉もさゆみも、決して心から当主の役目を担いたいわけではないのだ。
 直系の血筋――後を継ぐ者として直杉とさゆみしかいないので、二人は女の身でありながら『次期当主として相応しく』と厳しく躾けられ、武道の鍛錬に勤しむことを義務づけられているのだ。
 似たような境遇が共感を生んだ。
 幼稚部から同じ聖華学園に属し、同じ武道を嗜んできた。
 その間、互いが傍にいることが自然となっていた。
 来年から中等部に上がるが、二人の奇妙な関係はこのままずっと続いていくだろう。――少なくとも直杉はそう思っている。
「家に帰りたくないな」
 ポツリと、さゆみが洩らす。
「それは同感だな。最近、お祖父様が口うるさくて辟易する」
「うちの爺様もだよ。わたしが徳川と仲良くすることが気に食わないらしいね。馬鹿馬鹿しい。関ヶ原の恨み云々の話されても、そんな遙かな昔のこと――わたしには関係がないのにな」
「私にも関係ない。先祖がどうあれ、私は私だ。徳川の家だって、特に継ぎたいわけではない。私に弟ができれば、すぐにでも譲りたいくらいだ。何かある度に『やはり女に総主は務まらん』と言われても、私にはどうしようもないことだ」
「確かにな。わたしたちが女に生まれたのは、わたしたち自身のせいじゃない。なのに、わたしが爺様たちの気に入らないことをすると、すぐに『毛利の恥だ』と小言が始まる」
「フッ……私は『徳川の恥だ』だな」
 直杉とさゆみは顔を合わせ、苦笑を浮かべた。
 古い血筋に固執する血族たちの考え方についていけないのは、直杉もさゆみも同じらしい。血族たちは女が家督を相続するのが気に食わず、蹴落とそうとするくせに、その傍らでは総主に相応しくあるべきことを求め、強要するのだ。
 当人たちにとっては、理不尽この上ない状況だった。
「男に生まれたかったな。そうすれば、もっと気苦労が少なかったのかもしれない」
 さゆみが心の底からの想いを吐き出す。直杉は大きく首肯した。
「私もだ。男になりたいと何度切実に祈ったか解らぬな」
「君まで男になったら、わたしが困る」
「何故だ?」
「わたしと君が同性だと――わたしは、また君をライバル視してしまう」
 さゆみが曖昧な微笑を湛える。
「ふむ。なるほど……。私たちは、どちらかが男に生まれてくればよかったのだな」
「そうだったら、毛利の血族も徳川と張り合おうなどと下らないことを考えはしなかっただろう。わたしと君を引き離そうと躍起になることもなかったかもしれない」
 珍しく弱々しげな語調で呟き、さゆみは身を起こした。
「君はどうか知らないけれど、わたしは結構――君のことが好きなんだよ」
 正面から直杉を見つめ、微笑を送ってくる。
 どことなく淋しさの漂う微笑みだった……。


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2009.08.21 / Top↑
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