ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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LIST0 AKANE SAKAKI


注:作中††~††までは「ブラックリスト」から読み始めた方には不親切な作りとなっております。スミマセンッ(汗)
  「鏡月魔境」または「水幻灯」を未読の方はスルーして下さい。飛ばしても本編には支障はありません(笑)




『榊茜様
 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好 き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き――』


 ピンク色の紙面から芳しい花の薫りが漂っている。
 榊茜は、開いた便箋を一瞥して大仰に溜息を吐き出した。
 謎のラブレターは、今朝もしっかりと靴箱の中に入っていたのである。
「……ったく。毎日送ってくるほど俺のことが好きなら、名前くらい書けよ」
 溜息交じりに呟き、何気なく便箋を捲る。いつものように便箋には『好き』とだけ綴られている。
 二〇枚目を確認し終えて、
「あれ?」
 茜は首を捻った。
 一枚多いような気がするのだ。
 最初から枚数を数え直し、茜は柳眉をひそめた。やはり一枚多い。
 怪訝な面持ちで便箋を見据え、茜は恐る恐る最後の一枚を手にしてみた。


『一八歳のお誕生日おめでとうございます。
 今日は、貴方とわたくしが結ばれる、記念すべき日でもあります。
 貴方をお迎えに参りますので、楽しみに待っていて下さいませ。
                      貴方の運命の恋人より』


「……結ばれる? 迎えにくる? 運命の恋人? 随分勝手な女だな――というか、何なんだ一体……? 寒気がしてきた」
 見た瞬間、全身に悪寒が走り、茜は思い切り顔を引きつらせた。
 手紙を読んでしまったことを後悔し、慌てて便箋を封筒に戻す。
 どうやら、この手紙の差出人は尋常ではない精神の持ち主であるらしい。頗る思い込みが激しく、勘違いが得意な人物なのだろう。
 今日は確かに誕生日だが、その他に記されたことには全く身に覚えがない。思い当たる節もない。
 手紙の主は、勝手に茜を『運命の恋人』だと決めつけ、勝手に結ばれると信じ、勝手に迎えに来ると言っているのだ。とても正気の沙汰とは思えなかった……。
「気持ち悪い……」
 悪寒を払拭するようにふるふると首を振り、茜は生徒玄関から廊下へと身を移した。


     ††

 
「――茜さん」
 涼やかな声に呼び止められたのは、生徒玄関から廊下へと身を移した時だった。
「おはようごさいます、茜さん」
 声のした方へ首を向けると、端整な顔立ちの少年が微笑を浮かべて立っていた。
 一学年下にいる父方の従弟――有馬美人(ありま よしひと)だ。
「ああ、おはよう、美人」
「……疲れた顔をしてますね。葵さんと喧嘩でもしたんですか?」
 美しい黒曜石の双眸を翳らせて、美人は茜を不安げに見つめてくる。
「いや、違う……。ゲームのしすぎで寝不足なだけだ。《鏡月魔境》っていうオンラインゲームにうっかりハマッた。で、連日ネット三昧――まあ、葵には怒られてるけどな」
 茜は苦笑混じりに応え、肩を聳やかした。一瞬、奇怪なラブレターのことを打ち明けようかと思ったが、それは流石に思い留まる。
 この繊細な美貌を持つ従弟は、榊の分家の中で最も大きい有馬家の嫡子なのだ。有馬の跡取り――というだけで、美人は充分に多忙なのだ。ラブレター如きで彼の手を煩わせるわけにはいかない。
「本当にゲームが原因ですか? もしかして、僕に内緒で葵さんと二人――夜な夜な鬼を狩ってるんじゃないでしょうね?」
 美人が茜の耳元に唇を寄せ、ひそめた声で訊ねてくる。
「鬼退治はしばらくお休み。夏生を傷つられた怒りで、葵があっちの上の奴らを叩きのめしたからな。敵さんもビビッてるんだろ。ここしばらく襲撃もなしだ」
「その言葉、信じますよ。それはそうと――今日、茜さんと葵さんの誕生日ですね。おめでとうございます。今夜、そっちに遊びに行ってもいいですか? 夏生にも逢いたいですし」
 美人が真摯に言葉を紡ぐ。
 妹の夏生は、表向きはイギリス留学ということになっている。だが、真実は――とある事情で大怪我を負い、自宅療養の真っ最中なのである。
「俺たちは構わないけれど――多分、ムリだな。諦めろ、美人」
「えっ、どうしてですか?」
「高丸と同じくらいウザイ奴がやってきた」
 茜は再び苦笑を浮かべて、美人の背後を顎で示す。
「よっ、ビジンッ!」
 美人が振り返るより早く、金髪の少年が後ろから美人を抱き締めた。美人の幼馴染み――曽父江零治(そふえ れいじ)である。
「ちょっ、ちょっと、零治!? 朝から鬱陶しいよ!」
 美人の頬が微かに朱に染まり、言葉に焦燥か滲み出ねる。
 この幼なじみ二人組は、茜から見ても恥ずかしいほどの仲良しこよし振りなのだ。それが微妙に高丸と自分の姿に重なり、茜は口元を引きつらせた。
「そんなに照れるなって。ビジンがオレのことを好きなのは周知の事実なんだからさ。昨日から志乃がスペインに仕事に行っちゃって、物凄く寂しいんだけど、オレ」
「また海外出張なのか、おまえの彼女は?」
 茜が苦々しく訊ねると、零治は美人に絡みついたまま器用にも茜の方へ寄ってきた。
「おっ、茜サン。何か久しぶりっスね。――そうなんです、また海外に逃げられたので、オレ、傷心中。だから、今ちょっと茜サンのことも抱き締めたいかも」
 伸びてきた零治の片手を、茜は容赦なく叩き落とした。
「断る。変態は高丸一人だけで充分だ」
「あっ、ひっでーなぁ。従兄弟してオレに冷たいなんて、オレ、今夜眠れないじゃないですか。――なので、今夜はビジンを借りますね」
 零治がにっこり微笑んで、美人をギュッと抱き締める。
「……解った。美人を貸す」
「えっ? ちょっと茜さんっ!? 誕生日は――」
 美人が零治の腕の中で慌てたように藻掻く。
「だから、さっき『諦めろ』って言っただろ。いつもながら相思相愛でよかったな、美人。じゃ、俺はお邪魔のようだから、これで――」
「あ、茜さんっ!?」
 茜は従弟の避難の眼差しを避けるようにして、素早く身を翻した。
 美人には申し訳ないが、高丸とタイプの似た零治を相手にするのは正直疲れる。
 さっさと逃げるが勝ちだ。
 茜は従弟の抗議の声を背に、三年の教室へと足を向けた。
 だが、その直後――
「おおっと、茜だっ!」
 今度は紛れもなく祇園時高丸の声が耳に届けられた。

 
     ††


「おっはよう、茜!」
 脳天気な声が耳に届けられる。
 茜は、聞こえなかった振りをして先を急いだ。
「オイ、待てよ、茜!」
 なのに、耳慣れた親友の大声はあっという間に追いついてきた。素早く正面に回り込まれる。
 祇園寺高丸の巨躯が茜の眼前に聳え立つ。
「誕生日おめでとう!」
 高丸は満面の笑みを浮かべ、爽やかに祝辞を述べるのだ。
「朝から寒いこと言うな、高丸」
 冷めた眼差しで高丸を見上げ、茜はつっけんどに言葉を返した。
 この友人は、自分のことを必要以上に特別扱いする傾向がある。特別に想われて悪い気はしないし、寧ろ嬉しいのだが、茜はそれを素直に表現することができずにいる。高丸は臆面もなく恥ずかしい言葉やクサイ台詞を吐きまくるので、ついつい対処に困窮してしまうのである。
「あっ、ちょうどいいや。――コレ、やる」
 ふと謎のラブレターのことを思い出し、茜はそれを無理矢理高丸の手の中に押しつけた。
「また来てんのか? 執念深い女だよな……」
 受け取った封筒を見て、高丸が表情を曇らせる。
「持ってるのも気味が悪いし、棄てるのも怖いから、ちょっと預かってくれ」
「……ハイハイ」
 茜が渋い表情で訴えると、高丸はヒョイと肩を聳やかしてから手紙を無造作にズボンのポケットに突っ込んだ。
 転瞬――
「おっ! あれ、紀ノ國屋じゃないか?」
 高丸が驚きを含んだ言葉を発する。
 彼が見つめている方角を見遣ると、確かに生徒玄関付近に紀ノ國屋健治の姿があった。
 紀ノ國屋は、体調良好を示すように身体を器用にクネクネと踊らせながら廊下を進んでくる。
「紀ノ國屋!」
 高丸が気さくに呼びかけると紀ノ國屋は顔を上げ、周囲をキョロキョロと見回した。
 茜と高丸の姿を確認すると、唇の端を吊り上げてニヤリと笑い、こちらに駆け寄ってくる。無論、その間も身体は小刻みにリズムを刻んでいた。
「よお! 朝から二人でイチャイチャしてると、女どもに変な噂を流されるぜ」
 耳からイヤホンを引き抜き、紀ノ國屋は今一度唇に弧を描かせる。
「……元気そうだな」
 茜は敢えて紀ノ國屋の言葉を無視した。
「おまえ、学校に出てきて大丈夫なのか?」
 高丸が常と変わらず陽気な紀ノ國屋を見て、呆気にとられたような声音で問いかける。
「おう! ホントは昨日からだって、全っ然平気だったんたぜ。馨センセに治してもらったから身体はピンピンしてるしな! 頑固親父が、どうしても休め、って言うから、昨日は仕方なく休んだんだよ」
 弾んだ口調で告げ、紀ノ國屋は爽快な笑顔を浮かべた。どうやら、本当に身体の方は心配ないようだ。
「和泉田と有原は自宅謹慎らしいね」
「そうそう。そんなモンで済ませてやったんだ。アイツらもちょっとはオレに感謝の気持ちを抱け、っての!」
 茜が苦笑混じりに述べると、紀ノ國屋は途端に不愉快そうに眉根を寄せた。
「アイツらに誘拐されたなんて――紀ノ國屋健治、生涯の恥だぜ! まっ、決着はついたから、もうどーでもいいけどな。――それより、今日、茜の誕生日じゃなかったか?」
 矢継ぎ早に言を連ね、紀ノ國屋はまたしても笑みを刻んだ。不快な出来事は早く忘れ、楽しい事柄に没頭したいらしい。
「おっ、よく気づいたな。実は今夜、志緒のとこでパーティーをやることに決まってんだ。もちろん、おまえも来るだろ?」
 唐突に高丸が目を輝かせ、紀ノ國屋の顔を覗き込む。誕生日の話題に触れられるのを『待ってました!』と言わんばかりの勢いだ。
「行く行く! 久しぶりにみんなで騒ごうぜ!」
「……ちょっと待て。そんなこと、いつ決まったんだよ、高丸? 俺は聞いてないし、どうして松本の家でやるんだ?」
 意気投合する高丸と紀ノ國屋を横目で睨み、茜は口許をわななかせた。
「えっ? 昨日の昼休みに志緒と相談して決めたけど」
 高丸に言われて、茜は憮然とした。
 確かに、昨日の昼休みに誕生日の話をしていた気がする。あの時は、あまりに馬鹿らしくて席を立ってしまったが、自分が抜けた後、高丸と志緒の間では着々と計画が練られていたらしい。
「志緒の家、いつ行ってもお菓子があるからな。まっ、細かいことは気にするなよ。おまえは今夜の主役なんだからさ!」
 朗らかに笑い、高丸がバシッと茜の背中を叩く。茜がパーティーに参加することを信じて疑っていないような、はしゃぎぶりである。
「……しょうがない奴だな」
 低く呟き、茜は盛大に溜息を吐き出した。
「何だよ! もっと素直に喜べよな!」 
 気乗りしていないような茜の言葉を聞き咎め、高丸がもう一度背中を叩く。
「ハイハイ」
 茜は軽く首肯した。
 渋々といった態度を装っているが、内心では高丸たちの心遣いがひどく嬉しかった。両親は既に他界しているし、兄妹を除いて一緒に誕生日を祝うような恋人もいない。それを知悉しているから高丸たちはパーティーを企画してくれたのだろう。彼らの何気ない優しさが伝わってくるから、誘いを無碍にはできないし、妙に照れ臭かった。
「んじゃ、オレと徳川は部活があるから遅れるけど、茜たちは先に志緒んトコ行っててくれよな。――楽しみにしてろよ、茜!」
 快活な笑顔を向けてくる高丸に、無言で笑みを返す。
 謎のラブレターのことは、高丸の笑顔を見た瞬間、綺麗サッパリ脳裏から消え去っていた――


     *



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2009.08.23 / Top↑
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