ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 放課後の校舎は俄に活気づく。
 退屈な授業から解放され、いち早く外界へと飛び出していこうとする生徒。教室や廊下に群れを作り、談笑を楽しむ者たち。それぞれの属する部活動に意気揚々と赴く生徒たち。
 HR終了直後の学園は、授業中の静けさが嘘のように生徒たちで溢れ返っていた。
 祇園寺高丸はHRが終わった途端、教室を飛び出し、体育館へと繋がる旧校舎廊下を歩いていた。無論、部活動のためである。数時間ぶりに愛する白球に触れられるのかと思うと、それだけで心が躍る。
 加えて、今日は部活の後、親友――榊茜の誕生パーティーが控えているのだ。俄然、部活に対するやる気と闘志が湧いてくる。
 足取りも軽く高丸は体育館を目指していた。
 微笑みながら鼻唄を口ずさみ、浮き浮きした心情に素直に表現する。
 そんな高丸の愉楽をぶち壊しにしたのは、
「――高丸っ!」
 背後から届けられた叫び声だった。
「オイ! ちょっと待て、高丸っ!」
 高丸は驚きに身を竦め、それからゆっくりと背後を顧みた。怪訝な眼差しを廊下に注ぐと、人波を擦り抜けるようにして走るってくる紀ノ國屋健治の姿に出会した。
「どうした、紀ノ國屋」
 高丸は茫然と紀ノ國屋を見つめた。
 ――紀ノ國屋が走ってるなんて、おかしい。
 真っ先にそう感じた。
 紀ノ國屋は、一日の殆どを踊りに費やしている特異な人物だ。その紀ノ國屋が踊っていない――余程のことが起こっている明確な証拠だった。
「大変だ、高丸!」
 紀ノ國屋は高丸の目の前で足を止め、緊張を孕んだ声をあげた。だが、その真摯さとは裏腹に身体がリズムを刻み始め、手が激しく動き出す。
「だから、どうしたんだよ?」
 顔は切迫し切っているくせに、それでも踊り出した紀ノ國屋を高丸は胡乱げに見下ろした。用件があるなら、迅速かつ的確に述べてほしい。
「大変なんだ、高丸っ!」
「それは解ったから、さっさと続きを言え!」
 苛立ちを込めて紀ノ國屋を睥睨し、高丸は彼の脳天を一発軽く殴ってやった。
 瞬時、紀ノ國屋がピタリと動きを止める。ゼンマイ仕掛けの人形が事切れる瞬間に酷似していた。
「あっ、茜が大変なんだっ!」
「何っ?」
「変なヤツらに囲まれてんだよっ!」
「このバカッ! それを先に言えよっ」
 聞き終えた途端、高丸は無意識に紀ノ國屋の頭をもう一度殴っていた。
「何だって、そんなことになってんだ?」
 喚きに近い叫びをあげながらその場に荷物を放り出し、素早く踵を返す。
 ――部活は後回しだ!
 高丸は今辿ってきたばかりの道を慌てて引き返し始めた。
 ――どうして茜が狙われるんだ?
 一瞬、生徒会のことが脳裏をよぎった。
 だが、茜は《サイコプラズマ》保持者ではない。生徒会の面々に狙われる理由はないはずなのだ。何故、茜が不審な人間たちに絡まれているのか解らない。
 胸に焦燥が芽生える。
 茜の身に何か良からぬことが起こっている。危機が迫っている――常人にはない超感覚が、それを明敏に察知している。
「ちくしょう!」
 激しく毒突きながら、高丸は一心不乱に廊下を疾駆した。周りの生徒たちが高丸の巨躯と必死の形相に驚き、サッと道を開ける。
 高丸は上履きのまま生徒玄関から外へと飛び出した。
 目にも留まらぬような速度で校庭を駆け抜ける。
 茜がいると思しき場所は、すぐに発見できた。
 正門付近に人だかりができている。そこが騒ぎの中心であることは間違いなかった。
「どけ! どいてくれっ!」
 群がる野次馬たちを押し退けるようにして、強引に前に進み出る。
 真っ先に視界に飛び込んできたのは、道の中央に不貞不貞しく停車している黒塗りのベンツだ。窓にはスモークが貼られていて、車内を窺うことはできない。
 ベンツの傍には、漆黒のスーツにサングラスをかけた如何にも『怪しい者です』と宣言している屈強の男が三人――周囲に妙な威圧感を撒き散らしている。
 男の内の一人がしっかりと茜の身柄を拘束していた。
「茜っ!」
 高丸が絶叫を放つ。
 ほぼ同時に、男たちが力ずくで茜をベンツの後部座席に押し込めた――



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2009.08.23 / Top↑
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