FC2ブログ
管理画面
ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Mon
2009.08.24[08:47]
     *


 家庭科室には重苦しい沈黙が漂っていた。
 皆、適当な場所に腰を据え、不機嫌な表情で黙り込んでいる。
 ただ一人、世界史教師・黒井馨だけは、美顔に微笑を刻んでいた。
「――さて、諸君。榊君は何故攫われたのだと思う?」
 沈黙を打破するように、馨が一同を眺めながら問題を提起する。
「それが判断できるなら、馨センセに相談なんかしねーよ」
 紀ノ國屋が眉根を寄せ、悄然とした声で呟く。
「健治くんに続いて茜くんまで誘拐されちゃうなんて、不吉よね~」
 志緒も芳しくない表情で言葉を紡いだ。
「やっぱ、生徒会絡みか?」
 高丸に思い当たるのはそれぐらいのことしかない。紀ノ國屋を拉致したのは生徒会の連中だ。今回もそうでないとは断言できない。
「いや、それは違うだろう。生徒会執行部は既に私たちから手を引いている」
 高丸の意見をはね除けるように直杉が告げる。
「昨日、毛利が私に仕掛けてきた。その時に話をしたのだが、生徒会は私たちの力の調査を理事長代理と学園長に頼まれていたらしい。力が危険なものなら、私たちを学園から排除しろ、ともな」
「なるほどね。それでアイツら、妙にオレたちに絡んできたのか」
「だが、それももう終わりだ。毛利がそう約束したくれた。それに榊はサイコプラズマの保有者ではないから、生徒会の調査には端から関係ない」
 凛然とした声音で直杉は断言するのだ。
「じゃあ、誰が茜を――」
 高丸が困惑の表情で浮かべた瞬間、
「あ、あの……。あたし、榊先輩を誘拐した犯人に心当たりがあります」
 控え目な声が入口付近から流れてきた。
 予期せぬ言葉に驚いて戸口を見遣る。
「ごめんなさい。盗み聞きするつもりはなかったんですけど……」
 そう謝罪しながらドアから顔を覗かせたのは、先刻話題になった生徒会メンバーの一人――副会長・白羽美麗だった。
「今、何て言った? アンタ、茜を攫ったヤツを知ってんのかっ!?」
 高丸は思わず立ち上がっていた。慌てて美麗の傍に駆け寄り、彼女の手を引いて室内に招じ入れる。
 美麗が小さく頷くのを見て、高丸の心に希望の光が灯った。美麗には紀ノ國屋の所在を教えて貰った前例がある。生徒会とは相性は悪いが、美麗の情報は信じられるような気がした。
「徳川先輩の言う通り、あたしたちは理事長代理たちに依頼されて、先輩たちの超能力を調査していました。でも、彼らの真の目的は先輩たちじゃなく――榊先輩だったんです」
「は? 理事長代理の狙いが茜……?」
 美麗の言葉の意味が解せなくて、高丸は大きく首を捻った。
「理事長代理たちが本当に学園から排除したかったのは、榊先輩だったんです。でも、榊先輩に手を出すと祇園寺先輩たちが必ず邪魔するだろうから――って、先に祇園寺先輩たちを排除することに決めたらしいですよ。それも……全部失敗に終わりましたけど」
 美麗が説明を補足する。
 だが、高丸にはまだ理解することができなかった。ますます困窮して、高丸は渋い表情を皆に向ける。
 紀ノ國屋も志緒も馨も、不思議そうに美麗を見つめている。
 直杉だけは明敏に真相を察したらしく、口許を皮肉げに歪めていた。
 高丸の視線に気付くと、直杉は静かに口を開いた。
「理事長代理たちは、この学園を乗っ取ろうと目論んだのだろう。だが、それにはどうしても榊の存在が邪魔だというわけだ」
「そうです。今日は榊先輩の誕生日ですから」
 美麗が意味深に告げ、馨に視線を馳せた。
 美麗を見返した直後、馨が『あっ!』と小さな叫びをあげる。
「そうだ。今日は榊君の一八歳の誕生日ではないか! 僕としたことが失念していたよ!」
 己の迂闊さを呪うように、馨が甲高い声で言葉を捲し立てる。
「な、何だよ? オレたちにも解るように説明してくれよ、馨センセ」
 馨の勢いにたじろぎながら高丸は問いかけた。
「実は、先代理事長――つまり榊君のお父上の遺言で、一八歳の誕生日を迎えたら榊君は正式に理事長として就任することが決められているのだよ」
「はい? 茜が正式な理事長?」
「理事長代理たちは、榊先輩が遺言に従うことを怖れてるんです。榊先輩を理事長の座から蹴落とすために、理事長代理たちが何かを画策した可能性は高いと思います」
 馨の言葉を補うように美麗が言を連ねる。
 ようやく、高丸にも美麗たちが言わんとすることが把握できた。
「要は、茜を拉致した黒幕が理事長代理だってことだな」
 簡潔に頭の中を整理し、高丸は憤然と拳を握り締めた。
 沸々と心の奥底から怒りが芽生えてくる。
「赦せねぇ!」
 カッと目を見開き、咆吼を放つ。
 転瞬、高丸は教室のドアを開け、廊下に飛び出していた。
 傍にいた美麗が高丸の凄まじい勢いに瞠目する。
「あっ! 祇園寺先輩、何処に――?」
「理事館に決まってんだろっ! ――っと、色々教えてくれて、サンキューな!」
「お礼に、今度デートして下さいね!」
「えっ? あっ? いや……解った、何とかする! んじゃな!」
 背後から飛んできた美麗の言葉に、思わず了解を示してしまう。
 何だか勢いでデートの約束をしてしまったような気がするが、了承してしまったものは仕方ないだろう。
「それよりも、あの狸ジジイたち、赦せないぜ!」
 デートのことを念頭から締め出すようにかぶりを振り、高丸は駆ける足に力を込めた。
 拉致した犯人が判明したのならば、あとは相手を吊し上げて茜を返してもらうだけだ。
 ――待ってろよ、茜!
 胸中で激しく意気込み、高丸は一路理事館を目指した。


     *


 にほんブログ村 小説ブログへ 
← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト



 
テーマ * 学園ファンタジー ジャンル * 小説・文学
編集[管理者用] このページのトップへ

 

 
Copyright © 2020 言葉のさざなみ, all rights reserved.