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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Tue
2009.08.25[21:25]
「な、なっ、何で、そーなるんだよっ!?」
 長い沈黙の末、高丸はようやく喉の奥から声を絞り出すことに成功した。
 黒井百合子――その名は記憶に新しい。
 数日前、廊下で擦れ違った青蘭女学院の生徒会長だ。
 あの時、百合子は聖華学園に寄ったついでに日課のラブレターを茜の机に忍ばせたのだろう。それなら、百合子が新校舎の三階を彷徨っていたのも頷ける。
「何で馨センセの妹が茜を誘拐するんだよ?」
 高丸は喚きに近い質問を馨に浴びせた。
 馨の妹が真犯人だとは微塵も予測をしていなかったので、驚愕の度合いは大きい。
「さあ? 僕はただ、手紙に焚きしめられた薫りと筆跡に覚えがあっただけだよ。我が黒井家には『15-17』のベンツもある。まさかと思って確認してみたら、案の定」
「だーかーらー! どうしてなんだよっ!?」
「ラブレターから察するに、百合子は異常に榊君に惚れてしまったのだろう。榊君を自分だけのものにしたくて誘拐したのではないかな? まっ、とにかく百合子が拉致したことは間違いない!」
 しれっとした口調で馨は応じる。
 ――どーゆー妹なんだ!?
 高丸は顔をしかめた。今にも頭痛を発しそうな額を指で押さえる。
 馨の妹というからには、兄同様常識を逸脱している人物なのだろう。
 嫌な予測が容易くできるから不安だ……。
「真犯人が妹ということになりましたので、拉致事件のことは警察に通報しないで下さいね、理事長代理。こちらで解決します」
 ふと、馨が和泉田たちを振り返る。
 馨の意味深な笑みを受けて、和泉田は無言でコクコクと頷いた。その顔には安堵が広がっている。疑いが晴れて、内心喜んでいるのだろう。
「それで、どうするのだ?」
 直杉が指示を仰ぐように馨に視点を据える。
「決まってるじゃないか! 悪い魔女に囚われた美しきお姫様を、麗しの王子様とその下僕どもが助けにいくのだよ!」
 馨は拳を握り締めながら豪語する。
 とうとう高丸は頭痛を感じた。『麗しの王子様』は事の成り行きを大いに楽しんでいるようである。しかも高丸たちは勝手に『下僕』にされてしまったらしい……。
「王子様、敵の本拠地はいずこで?」
 紀ノ國屋が楽しげにニヤリと笑う。彼がパチンと指を鳴らすと、その手に突如として深紅の薔薇が出現した。
 紀ノ國屋が薔薇を差し出すと、馨はそれを当然のように受け取る。
「百合子は奥多摩の別荘に向かったようだ。我が妹ながら愚かな子だ。この僕に――この世で最も薔薇の似合う美しい僕に、喧嘩を売るなんて百万年早いのだよ!」
 不敵な笑みを浮かべる馨を見て、高丸は深い深い溜息を落とした。
 茜を助けに行くためだから、とりあえず大人しく馨に従うが、先が思いやられる……。
「さあ、諸君! 榊君を救出に出発だ!」
「わ~い! 志緒、張り切っちゃう~!」
 事態をあまり把握していない様子で、志緒が喜色満面に微笑む。
 高丸はすっかり遠足気分の一同を見回して、もう一度重い溜息を洩らした。
 自然と脳裏に不吉な四字熟語が浮かぶ。
 前途多難――


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